YMTC製NANDを搭載したSSDによる価格破壊の波が過ぎ、円安も相まってSSD相場が上昇したころから、非YMTC系のSSDがぽつぽつと登場し始めました。
今回レビューするHP「FX900 Pro」もその一つです。
製造は中国BIWIN (深圳佰维存储科技股份有限公司)。2010年設立のストレージ製品専門メーカーで、2016年にはHPのSSDおよびメモリ製品の独占ブランド認定を取得しています。
HP FX900 Pro
■ FX900 Pro 4A3U1AA#UUF | |
容量 | 4TB |
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接続 | PCIe Gen 4.0 x4 NVMe 2.0 |
転送速度 | リード:7,400MB/s ライト:6,700MB/s |
NAND | Micron 176L TLC NAND |
キャッシュメモリ | 4GB |
耐久性 | 2400TBW |
保証 | 5年 |
参考 スペックシート:BIWIN
本体外観
箱はHP製品の保守パーツと言われて渡されても違和感がないくらい、HP色全開。
スリーブはしっかりしたもので、ねじ付き。
マニュアルは冊子タイプ。
日本語フォントには問題ないものの、翻訳がいまいちでところどころカタコトになっています。
本体裏表。
「FX900 Pro」の4TBモデルは両面実装です。
サーマルシートがえらく分厚い…スポンジっぽい感じで、ほんとにこれで熱放出できるんだろうか…
裏面はただのシールです。
中身の裏表。
コントローラはInnoGrit IG5236。
キャッシュメモリはSK Hynix H5ANAG6NCJ。DDR4-3200駆動の16Gb(2GB)チップです。
これが裏表に1チップずつで、合計4GBのDRAMキャッシュを形成しています。
NANDには「BW29F8T08EWLEE」の刻印。
TLC176層のMicron B47Rのリブランド品です。
fidでは、Micronの名前で表示されます。
調べたところ、Acer「GM7000」が全く同じ構成のようです。
というか、AcerもBIWINに製造委託していますね。
参考 Acer Predator GM7000 4 TB Review:TechPowerUp
チェック環境
検証はLenovo「IdeaCentre Mini Gen8」と、システムとしてMonsterStorage「MS950(2TB)」を使用。
測定中は蓋を開けたまま検証。
CrystalDiskInfoの情報です。
接続はNVMe 1.4。ファームウェアバージョンは3.A.J.CR。区切りが謎すぎる…
ざっくり調べた感じだと、NVMe 2.0ではZNS Command SetやKV Comman Setが追加され、HDDをサポートするように。
NVMってNon-Volatile Memory(不揮発性メモリ)の頭文字(eはExpress)なのに、磁気ディスクをサポートとは…
ベンチマーク
また、機材の限界(Intel系CPUの制限)として、7,000MB/s付近が上限となります
CrystalDiskMark
CrystalDiskMarkではサイズを1GiB・64GiBにして測定。
シーケンシャルでリード7,041MB/s、ライト6,658MB/sを記録。上記の通り、リードは機材側の限界で、ライトは仕様通りに出ています。
64GiB時は128Kシーケンシャルライトがやや落ち込み。これはDRAMキャッシュからあふれたことが要因と思われます。
4Kランダムのレイテンシ(1GiB時)は53.39μs。64GiB時でも53.81μsと落ち込みは見られません。
書き込みレイテンシも64GiB時で25.22μsと落ち込みがなく、かなり良い結果に。
この辺りはCPU直結にするなど遅延要素を徹底的に排除しないと実力が見えないところなので、モバイル向けCPUとの組み合わせならこんなものと言えるかと。
AS SSD Benchmark
AS SSD Benchmarkでは総合5810ポイントと高得点。
中身についても4K/64スレッド書き込みが強く、アクセスタイムが速い点はSK hynix「Platinum P41」と同様なので、DRAMキャッシュ付きSSDの特徴なのかも。
h2testw
全領域に書き込みをして速度を計測するh2testwはちょっと早い、2.3GB/sでスタート。
800GB付近で600MB/s台に落ち込んだので、SLCキャッシュは20%程度に設定されている模様。
1TBを過ぎたあたりで250~300MB/s程度まで落ち込み。
その後は100~200MB/sと600~700MB/sを繰り返し。
250~300MB/sで安定。NANDへの1スレッド直書きがこの速度なのでしょう。
そのままこの速度を維持して完了しました。
負荷は85%程度までしか上がらず、多少の余裕を持っています。
最終的には平均書き込みが406MB/s、読み込みが1.05GB/s。
総合ではかなり遅く見えますが、そもそも1TBの書き込みなどはそうそう発生することがありませんし、SLCキャッシュが効く範囲でならほかのSSDと変わらない速度が出ているので、そこまで気にするほどではなさそう。
ATTO Disk Benchmark
ATTO Disk Benchmarkはファイルサイズが小さなファイルにおけるスループットを計測するベンチマークです。
2MBをピークとした山を描いています。過去にレビューしたSSDに比べて、16MB以降の落ち込みが大きいです。
HD Tune Pro
HD Tune Proではリードはやや荒れていますが、平均2,608MB/sとかなり高速。
ライトはほかのSSDよりも振れ幅が狭く、平均2,780MB/sでした。
リード・ライトともにこれまでレビューしてきたSSDの中でもトップクラスです。
その他の計測結果は以下。
3DMark Storage Benchmark
3DMark Storage Benchmarkでは1272ポイント。
「Platinum P41」やVerbatim「Vi7000G」の半分程度です。
まだレビューを公開していませんが、Nextrage「NE1N4TB」でも同様にスコアが低かったので、両面実装という点がネックなのかも。
ファイル転送(書き込み)
ファイル転送は「DiskBench」を使って計測。
10GB(1GB×10)のファイル:2.768秒 (3699.422 MB/s)
100GB(1GB×100)のファイル:37,972秒 (2696.724 MB/s)
1TB(1GB×1000)のファイル:630.836秒 (1623.243 MB/s)
ほかのSSDと比べると10GB書き込みは早く、100GB書き込みは平均的、1TB書き込みは遅いという結果に。
h2testwでも見たように、1TBはSLCキャッシュの範囲を超えるため、時間がかかったようです。
反対にDRAMキャッシュの範囲内であればかなり早いですね。
温度について
FLIR ONE PROでの計測では、表面温度は最大80.7度。ただし、裏面の温度は測れていません。
センサー上では最大102度となっていて、これサーマルスロットリングが発生してますね。
センサー位置は分からないものの、100度を超えるようでは耐久性にも不安がありますし、素のヒートシンクもない状態で高負荷がかかり続けるような運用には向いていないようです。
まとめ
「FX900 Pro(4TB)」はDRAMキャッシュを搭載したM.2 SSDで、DRAMキャッシュの効く範囲であれば高速、SLCキャッシュの範囲では普通、キャッシュの範囲外では遅めという結果となりました。
とはいえ実際の使用ではDRAMキャッシュ(4GB)を超えるサイズのファイルはゲームくらいで、それもSLCキャッシュの範囲に収まります。
両面実装なために排熱・冷却面が弱いものの、これは現状のDRAMキャッシュ搭載SSDの4TBモデル全般に共通する問題です。
がじぇっとりっぷが知る限り、4TB・DRAM・片面実装を満たすのは「Samsung SSD 990 PRO」くらいしかありません。
そのうち4TB・DRAM・片面実装が当たり前になる日が来るかもしれませんが、ベンチマークのようなハードな使い方でもなければ、サーマルスロットリングに引っかかることはそうないわけで。
そもそも、読み込みでは他のSSDに遅れはとっているわけではないので、書き込み過多でなければ特に違和感なく使えるでしょう。
大手ブランドの名を冠せる程度には信頼性があり、4TBクラスのM.2 SSDの中でも実売価格が安めでDRAM付き。
YMTC系SSDが値上がりした今は、結構狙い目かもしれません。
関連リンク
公式製品ページ:BIWIN
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