ここ最近のミニPCは、Intel N95/N100に代表される格安機、Ryzen 5000シリーズを搭載するワンランク上のミドル機、現行最新CPUを搭載するハイエンド、という風に大まかにランクが分かれています。
これを価格別(ベアボーンは除く)にみると、2万円前後、4~5万円、10万円前後となり、7~8万円の価格帯の層が薄いことが見えてきます。
MINISFORUM「UN1290」は、あえて旧世代のCPUを採用することで、この薄い層をカバーする機種となります。
搭載CPUはCore i9-12900HKで、下位モデルにCore i7-12650Hを搭載した「UN1265」、Core i7-12700Hを搭載した「UN1270」があります。
価格は抑えつつも、一定以上の性能を持っている一台として、どう仕上がっているのか見ていきたいと思います。
MINISFORUM UN1290

CPU | Core i9-12900HK |
---|---|
メモリ | 32GB DDR4-3200 |
ストレージ | 1TB NVMe Gen4 SSD |
インターフェース | USB Type-C(3.2)×1 USB3.2 Gen2×2 USB2.0×2 HDMI 2.0 DisplayPort 1.4 2.5GbE 有線LAN オーディオジャック |
wi-fi | Wi-fi 6+BT5.2 |
サイズ | 119.6×127.8×54.3mm |
GoodPoint
✔ コストのかけ方がうまい
✔ 比較的静か
✔ コンパクトな電源アダプタ
✔ 3年保証
BadPoint
✖ ハイエンド機ほどの高機能性はない
✖ メモリ・ストレージ側にファンなし
パッケージ
・電源アダプタ
・HDMIケーブル
・VESAプレート
・SATAケーブル
・マニュアル
「UN1290」のインターフェース
・電源ボタン
・オーディオジャック
・USB 3.2 Gen2 ×2
・電源ジャック
・HDMI
・USB 3.2 Type-C
・2.5GbE 有線LAN
・DisplayPort ×1
・USB 2.0 ×2
インターフェースはしっかりコストを抑える工夫がなされています。
USB4/Thunderbolt4は非対応で、Type-CはUSB3.2止まり。しかし映像出力とUSB PD給電にはしっかり対応しています。
現実的にはUSB4/TB4が必要な層はそう多くはないですし、USB4/TB4が必要ならハイエンド機を買えってことですね。
また、地味にSDカードスロットも非搭載です。
「UN1290」のパフォーマンス
試用機の搭載CPUはAlder Lake世代のCore i9-12900HK。14コア20スレッド(6P8E)という、とんでもCPUです。
ファンや冷却の設定はデフォルトのままで計測しています。
Core i9-12900HKは2022年1月発表の、2世代前のCPUです。

とはいえ、PコアとEコアのハイブリッド構成を採用したことで第11世代比で最大28%という大幅な性能向上を果たしており、Intelが「10年に一度の大変革」とまで表現したCPUです。
逆に言えば、調達コストが抑えられる旧世代CPUでありながら、性能も担保できるのが今のAlder Lake世代の立ち位置と言えます。
総合
PassMarkのCPUスコアはかなり健闘しています。一つ後の世代となるCore i7-13700Hと並んでいます。
シングルスレッド性能はCore i7-13700Hよりも低いですが、対Ryzenだと同等レベルです。
旧世代CPUとはいえこれだけの処理能力があれば、普段使いや、多少ハードな使い方をしても余裕でこなせるでしょう。
3月31日にリリースされたばかりのCrystalMark Retroでも計測。
比較データが不足しているので、参考程度です。
CPU


上段:マルチスレッド、下段:シングルスレッド
CINEBENCHはやや低め。
観察していた感じだと、騒音を抑える(ファン速度を抑える)ために、あまりCPU温度を上げないようなチューニングを行っているようです。
それでも普通に使えるというか、第11世代以前とは隔絶した性能を持っているので、第12世代CPUというのはいいチョイスなんだなぁというのがわかります。
GPU


グラフィックは第11世代から第13世代まで同じIris Xeアーキテクチャであり、EU数や動作周波数の違いからくる差はあれど、大きな差はありません。
ゲームや3Dには向きませんが、画像編集程度であればこなせます。
ストレージ
「UN1290」のストレージはKINGSTON OM8PGP41024Q-A0。
デザイン・インというメーカー・設計者向けカテゴリのSSDで、Micron B47R 176層 3D TLCを採用しています。
参考 Design-In Solid State Drives for system designers and builders:Kingston
CrystalDiskMarkでは、リード4,800MB/s、ライト3,900MB/s。
これまでいくつもミニPCをレビューしてきましたが、標準SSDは5,000MB/sクラスとなるようです。
外観
外箱は化粧なしの段ボール。「UN100D」と同じものかと思ったらサイズが微妙に違うという。

モデル間の差はシールで対応。
パッケージ
再掲ですがパッケージ内容です。
付属品
HDMIケーブルはちょっと短めの0.6m。
SATAケーブルと固定ねじ。
マニュアル類。
マニュアルの日本語はいわゆる中華フォントが使われています。
「放置すると世界的にこれが”正しい日本語の漢字”と思われるようになる」という意見を見てからは、指摘することにしています。
とはいえ、必ずしもメーカーが悪いというわけではなく、印刷会社が日本語フォントを入れていなかったなんてパターンもあるようですが…
電源アダプタは120W出力。
かなりコンパクトになっていて、4ポートのUSB PD充電器くらいの大きさです。
VESAマウンタはかなり肉抜きされた形状。
筐体
筐体前面と背面。
色合いはMac mini風です。
側面は吸気口のみ。
底面側も大きくスリットが開けられています。
ちなみに試用機にはありませんが、製品には底面に技適のシール(技適番号は020-200147)が貼られています。
参考 技術基準適合証明等を受けた機器の検索 (020-200147):総務省
重さは本体546g、電源アダプタ込みで940g。
内部
ネジはゴム足の下に隠されています。ゴム足は両面テープでくっついています。
底面カバーを開いたところ。
筐体は樹脂+メタルフレーム構造をとっています。GEEKOMも採用していましたが、樹脂筐体でコストを抑えつつ強度も確保できる構造で、こんなところにもコストダウンの努力が見えますね。
最近ではハイエンドクラスを中心にストレージファンが付くのも当たり前になってきましたが、「UN1290」では底面側(メモリ・ストレージ側)のファンはありません。
底面カバーには2.5インチHDD/SSDを固定するスペースがあります。
内部全体と、メモリ・ストレージを外した状態。
M.2 SSDはシングルスロットで、最近のハイエンドに多いデュアルM.2ではなく、安価なミニPCに多いM.2+2.5インチのデュアルストレージ構成をとっています。
Wi-fiカードの右にある白いソケットがSATA端子です。
ストレージとWi-fi。Wi-fiカードはMediatek MT7921チップを搭載したAI-LINK WF-M921E-MPA1。
公式ストアではWi-fi 6E+BT5.2と書かれていますが、正しくはWi-fi 6+BT5.2です。
SSDは片面実装で、ヒートシンクはゴムで止める安っぽいタイプ。
全体的に、設計の世代が一つ古いという印象ですが、コストをかけないことを前提としたらこうならざるを得ないかなと。
システム
起動前
UEFIはグラフィカル。
Lenovoと似たような雰囲気で、割と細かく設定できます。
今回はファン設定はデフォルト(オート)のままにしました。
恒例のバックアップです。
使用したのは「Macrium Refrect Free」で、バックアップサイズは56.38GBでした。結構重いですね。
セットアップ時は特に裏技を使うことなく、すんなりローカルアカウントが作れました。
システム情報
システム情報。
OSはWindows Home。ローカルアカウントが簡単にできたのはProじゃない or バージョンが22H2だからかも。
HWiNFOによるCPU・GPU情報。
CPU詳細。
TDPの設定可能な範囲は35~65Wですが、PL1・PL2ともに45Wに設定されていて、瞬間的にも最大45Wまでとなっています。
これがCINEBENCHでスコアが伸びなかった要因でしょう。
ただし、TDPを上げれば性能アップするとは限りません。
過去にレビューしたGEEKOM「IT13」では冷却と電源アダプタの出力が追い付かず、性能を十全に発揮できていなかったので、筐体の冷却能力に合わせて最初から上限を決めてしまうのも理にかなった選択と言えます。
ゲームベンチマーク
レビュー機のスペック
レビュー機のスペックは以下の通り。
CPU | Core i9-12900HK |
---|---|
グラフィック | Iris Xe |
メモリ | 16GB DDR4-3200×2 |
ストレージ | 1TB Gen4 SSD |
[中量級] Street Fighter VI
2023年6月に発売し、全世界で300万本(2024年1月時点)を売り上げたストリートファイター6。
LOW/FHDでかろうじて30FPSに届きましたが、まともにプレイするには60FPSとなるLOWEST/720pにする必要があるでしょう。
[中量級] FF XIV 暁月の終焉
設定 | スコア | 平均FPS | 評価 |
---|---|---|---|
1920×1080 最高品質 | 3912 | 27.18fps | 設定変更 |
1920×1080 高品質 | 5518 | 38.45fps | 普通 |
1920×1080 標準 | 7054 | 50.10fps | やや快適 |
1280×720 高品質 | 9535 | 68.46fps | やや快適 |
1280×720 標準 | 11550 | 82.28fps | 快適 |
実ゲームではまぁこんなもんかなぁというスコアです。
FHDでも標準品質なら平均50fps(最低フレームレートは26fps)出ているので、プレイ自体はできそうです。
[重量級] FF XV Windowsエディション
設定 | スコア | 評価 |
---|---|---|
1920×1080 高品質 | 1637 | 動作困難 |
1920×1080 標準品質 | 2366 | 重い |
1920×1080 軽量品質 | 3030 | 普通 |
1280×720 標準品質 | 3427 | 普通 |
1280×720 軽量品質 | 4180 | 普通 |
重量級のFF XVでも第11世代と第13世代の間のスコアです。
消費電力・稼働時間・騒音・温度
消費電力
アイドル時 | 11.6W |
---|---|
画面オフ時 | 10.5W |
スリープ時 | 0.0-6W |
CINEBENCH(S) | 43.4W |
CINEBENCH(M) | 72.5W |
最大 | 78.7W |
消費電力は、アイドル時がやや高め。
一方で最大消費電力は80Wにも届かず、かなり抑えられています。
これは前述のTDP45W設定によるものですね。
なお、スリープ時はこんな感じで0~6Wくらいの範囲で荒ぶっていました。なんで?
騒音
状況 | 音量 |
---|---|
電源オフ | 35.0dB |
アイドル | 35.2dB |
最大 | 41.8dB |
最大(背面) | 44.2dB |
騒音レベル[dB] | 音の大きさのめやす | 自室内の聞き騒音 | |
---|---|---|---|
うるさい | 70 | 掃除機 騒々しい街頭 | 非常にうるさい |
60 | 普通の会話・チャイム 時速40キロの自動車の内部 | 非常に大きく聞こえうるさい 声を大きくすれば会話ができる | |
普通 | 50 | エアコンの室外機 静かな事務所 | 大きく聞こえる 通常の会話は可能 |
40 | 深夜の市内 図書館 | 多少大きく聞こえる 通常の会話は十分に可能 | |
静か | 30 | ささやき声 深夜の郊外 | 非常に小さく聞こえる |
20 | ささやき 木の葉のふれあう音 | ほとんど聞こえない |
「UN1290」の騒音は比較的静か。
アイドル時は20cmくらいまで耳を近づけてようやく、サーという音が聞こえる程度。
フルロード時はそのまま音が大きくなった感じで、一応聞こえますが高周波音もなく、意識しにくい音です。
騒音値も41.8dBと低め。静音性がウリのノートPCくらいの数値で、高性能ミニPCとしては頭一つ抜けた静音性と言えます。
温度
CPU温度は最大で80℃。CPU的には最大100度なので、かなり余裕があります。
CPUの消費電力を見てもTDP45Wの設定が守られていますね。
ファンも最大3100RPMと中速程度までしか上がらないので、騒音が抑えられています。
まとめ
「UN1290」の価格は記事執筆時点のAmazonでクーポン込み76,934円。ストレージが512GBだと72,074円です。
コストをかけるところとかけないところの分け方が巧みで、性能は落とさないコスト優先モデルとして、見事と言えます。
USB4/TB4は仕方ないにしても、欲を言えばType-Cがもう1ポート欲しかった、くらいが惜しいポイントでしょうか。
ストレージファンやUSB4/TB4、DDR5メモリなどの高機能性をそぎ落としているとはいえ、CPU性能だけは高いので普段使いの範囲では全く問題ありません。
モニターがUSB PD給電(90W以上)に対応していればType-Cケーブル一本で電源も映像も賄えますし、安価だけどストレスは感じないミニPCが欲しいというユーザーには向いている一台と言えるでしょう。
関連リンク
付録
ベンチマーク結果一覧
メーカー | MINISFORUM | |
---|---|---|
モデル名 | UN1290 | |
CPU | Core i9-12900HK | |
GPU | Iris Xe | |
メモリ | 16GB×2 | |
ストレージ | 1TB | |
PassMark 9 | Total | 7258.1 |
CPU Single | 3872 | |
CPU Multi | 25386.6 | |
2D | 1096.7 | |
3D | 2292.4 | |
Memory | 3317.3 | |
Disk | 41550.4 | |
PassMark 11 | Total | 5049.4 |
CPU Single | 3640 | |
CPU Multi | 24226.1 | |
2D | 734 | |
3D | 3348.6 | |
Memory | 3104.3 | |
Disk | 37107.5 | |
3DMark(旧バージョン) | TimeSpy | 1841 |
Graphics | 1612 | |
CPU | 9499 | |
FireStrike | 5048 | |
Graphics | 5447 | |
Phisics | 22406 | |
Combined | 1863 | |
NightRaid | 18430 | |
Grapihics | 20934 | |
CPU | 10986 | |
SkyDiver | 17520 | |
Graphic | 17063 | |
Phisics | 21352 | |
Combined | 16402 | |
CloudGate | 25731 | |
Graphics | 32180 | |
Phisics | 15124 | |
IceStorm | 163354 | |
Graphics | 224095 | |
Phisics | 83829 | |
IceStormEX | 130181 | |
Graphics | 155545 | |
Phisics | 82880 | |
IceStormUnlimited | 175126 | |
Graphics | 241048 | |
Phisics | 89479 | |
3DMark | TimeSpy | 1842 |
Graphics | 1613 | |
CPU | 9466 | |
FireStrike | 5042 | |
Graphics | 5432 | |
Phisics | 22177 | |
Combined | 1870 | |
NightRaid | 18581 | |
Grapihics | 20968 | |
CPU | 11297 | |
SteelNomad | 170 | |
Graphics | 1.71 fps | |
SteelNomadLight | 1210 | |
Graphics | 8.96 fps | |
CINEBENCH R15 | OpenGL | 106.17fps |
CPU(M) | 2005cb | |
CPU(S) | 248cb | |
CINEBENCH R20 | CPU(M) | 4957pts |
CPU(S) | 660pts | |
CINEBENCH R23 | CPU(M) | 13154pts |
CPU(S) | 1730pts | |
CrystalMark | Mark | 913399 |
ALU | 329411 | |
FPU | 178424 | |
MEM | 209021 | |
HDD | 142593 | |
GDI | 27222 | |
D2D | 6161 | |
OGL | 20567 | |
CrystalMark Retro | All | 10561 |
CPU-Single | 11563 | |
CPU-Multi | 106120 | |
2D-text | 11199 | |
2D-square | 19271 | |
2D-circle | 13547 | |
2D-image | 20318 | |
3D-scene1 | 1399 | |
3D-scene2 | 851 | |
3D-scene1-CPU | 190 | |
3D-scene2-CPU | 169 | |
GeekBench4 | Single | 7341 |
Multi | 36586 | |
OpenCL | 52231 | |
OpenCL(dGPU) | – | |
GeekBench5 | Single | 1721 |
Multi | 9585 | |
OpenCL | 18086 | |
OpenCL(dGPU) | – | |
GeekBench6 | Single | 2367 |
Multi | 10173 | |
OpenCL | 15523 | |
OpenCL(dGPU) | – | |
PCMark | ALL | 5931 |
Essensial | 10578 | |
Productivity | 7386 | |
DigitalContent | 7249 | |
VR Mark | 2295 | |
DQ(DX9) | 1920・最高 | 10374 すごく快適 |
1280・標準 | 14381 すごく快適 | |
FF XIV(DX11) 暁月の終焉 | 1920・最高 | 3912 設定変更 27.18fps |
1920・高 | 5518 普通 38.45fps | |
1920・標準 | 7054 やや快適 50.10fps | |
1280・高 | 9535 やや快適 68.46fps | |
1280・標準 | 11550 快適 82.28fps | |
FF XIV(DX11) 黄金の遺産 | 1920・最高 | 2447 設定変更 16.98fps |
1920・高 | 5698 普通 40.61fps | |
1920・標準 | 6076 やや快適 42.82fps | |
1280・高 | 7714 やや快適 57.24fps | |
1280・標準 | 8338 快適 61.48fps | |
FF XV(DX11) | 1920・高 | 1637 動作困難 |
1920・標準 | 2366 重い | |
1920・軽量 | 3030 普通 | |
1280・標準 | 3427 普通 | |
1280・軽量 | 4180 普通 | |
MHF(DX10) 大討伐 | 1920 | 11353 |
1280 | 19921 | |
Blue Protocol (DX12・1920) | 最高画質 | 2247 動作困難 16.84 fps |
中画質 | 3315 動作困難 25.29 fps | |
低画質 | 6055 普通 45.54 fps | |
ブラウザ | jetstream2 | 294.369 |
BaseMark | 1362.67 | |
WebXPRT3 | – | |
WebXPRT4 | 287 | |
MotionMark | 1756.78 | |
SpeedMeter2.0 | 355 | |
SpeedMeter3.0 | 23.4 | |
octane | 88592 |
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