2024年9月3日、Intelは「IFA Berlin 2024」(9月6~10日)に先だってインテルCore Ultraプロセッサー シリーズ2、コードネーム「Lunar Lake」を発表しました。
とはいってもあくまで正式発表が9月4日だけで、技術詳細はCOMPUTEX 2024(2024年6月4~7日)の前日基調講演から解禁。
このような珍しいスケジュールは、Microsoftの唱える「Copilot+ PC」(要件の一つが40TOPS以上のNPU搭載)対応でAMDやQualcommに出遅れたことによるアピール的側面が強いです。
また「Lunar Lake」は「Core Ultra シリーズ2」という名称から、「Core Ultra シリーズ1」(Meteor Lake)の後継のように見えますが、Uシリーズに相当する製品しかありません。
ターゲットにしているのは、薄型・軽量(英語で言うとThin & Light)のノートPCで、ハイパフォーマンス向けは「Arrow Lake」のコードネームで今後登場する予定です。
新要素まとめ
・製造プロセスはTSMC N3B(3nm)+N6(6nm)
・CPUはPコア+Eコア構成の8コア8スレッド
・16GB/32GB LPDDR5x-8533のメモリ一体型CPUに
・TDP(PBP)は30Wと17W(28W/15Wにメモリ分で2Wを追加)
・Pコアは「Lion Cove」アーキテクチャ、Eコアは「Skymont」アーキテクチャ
・SoCタイル内のLP Eコアはなし(代わりにEコアが実質LP Eコア相当)
・PコアのHT(ハイパースレッディング)廃止
・Meteor Lake比で最大2.9倍の電力効率
・最大48TOPSのNPUを搭載
・グラフィックはXe-LPGからXe2アーキテクチャに
・グラフィックににXMXエンジン追加→CPU全体で最大120TOPS
・L0キャッシュを追加
・メモリサイドキャッシュ(L4キャッシュ)を追加
・Wi-fi 7の一部機能(MAC)を内蔵
・PSE(新セキュリティ機能)を搭載
・PCIeはGen5 x4+Gen4 x4の計8レーン
・対応するAIフレームワークの追加
・プロセッサーナンバーは200V番台
ラインナップ
※簡易版。詳細版は記事の最後に掲載
プロセッサーナンバー | メモリ | コア数(スレッド数) | 最大(Pコア) | Xeコア数 | NPU TOPS | 全体TOPS | ベースTDP |
---|---|---|---|---|---|---|---|
Core Ultra 9 288V | 32GB | 8 (8) 4P4E | 5.1 GHz | 8 | 48 TOPS | 120 TOPS | 30W |
Core Ultra 7 268V | 32GB | 5.0 GHz | 118 TOPS | 17W | |||
Core Ultra 7 266V | 16GB | ||||||
Core Ultra 7 258V | 32GB | 4.8 GHz | 115 TOPS | ||||
Core Ultra 7 256V | 16GB | ||||||
Core Ultra 5 238V | 32GB | 4.7 GHz | 7 | 40 TOPS | 97 TOPS | ||
Core Ultra 5 236V | 16GB | ||||||
Core Ultra 5 228V | 32GB | 4.5 GHz | |||||
Core Ultra 5 226V | 16GB |
ざっくり性能表
※Geekbenchの集計値に基づいています
新要素
第11世代以降との比較
※PCモードでの閲覧推奨
Ultra第2世代 | Ultra第1世代 | 第13世代 | 第12世代 | 第11世代 | |
---|---|---|---|---|---|
コードネーム | Lunar Lake | Meteor Lake | Raptor Lake | Alder Lake | Tiger Lake |
製造プロセス | TSMC N3B | Intel 4 | Intel 7 Ultra | Intel 7 | 10nm SuperFin |
CPU | Lion Cove Skymont | Redwood Cove Crestmont | Rapter Cove Gracemont | Golden Cove Gracemont | Willow Cove |
L2キャッシュ | Pコア×2.5MB Eコア×1MB (クラスタ4MB) | Pコア×2MB Eコア×1MB (クラスタ4MB) | Pコア×1.25MB Eコア×0.5MB (クラスタ2MB) | 1.25MB | |
L3キャッシュ | 最大12MB | 最大24MB | Pコア×3MB Eコア×0.75MB (クラスタ3MB) | Pコア×3MB Eコア×0.75MB (クラスタ3MB) | コア数×3MB |
GPU | Xe2 | Xe-LPG | Xe-LP | ||
EU数(最大) | 64 | 128 | 96 | ||
最大解像度 | 7680×4320@60Hz | ||||
ディスプレイ数 | 3 | 4? | 4 | ||
DirectX | 12.2 | 12.1 Ultimate | 12.1 | ||
OpenGL | 4.6 | ||||
メモリ | LPDDR5X-8533 オンダイメモリ | DDR5-5600 LPDDR5/X-7467 | DDR5-5200 LPDDR5-5600/6400 DDR4-3200 LPDDR4-4267 | DDR5-4800 LPDDR5-5200 DDR4-3200 LPDDR4-4267 | DDR4-3200 LPDDR4-4267 |
GNA | – | GNA 3.0 | GNA 2.0 | ||
NPU | 第4世代NPU 最大48TOPS | 第3世代NPU 最大11TOPS | – | ||
Thunderbolt/USB | TB4×3 | TB4×4 | TB4 USB4 | ||
PCI Express | Gen5 x4レーン Gen4 x4レーン | Gen5 x8レーン Gen4 x20レーン | Gen 5 (最大16レーン) | Gen 4 (最大16レーン) | Gen 4 |
「Lunar Lake」はあくまで薄型・軽量ノート向けで電力効率を追及したものなので、電力コストの大きいPCIeは必要最低限となっています。
M.2 SSD(Gen4 x4)+M.2 SSDまたはdGPU(Gen5 x4)という構成と思われます。
また、Thunderbolt4は別口で3ポート確保されています。
HTTを廃止したCPU
「Lunar Lake」のCPU部分は、全ラインナップ共通で8コア8スレッド(4P4E)です。つまり、Pコアも1コア1スレッドです
2002年のPentium 4(Northwood)で導入(正確にはXeon(Prestonia)の方が先)されたハイパースレッディング技術(HTT)ですが、そもそもマルチコア化が進んだこと、処理切り替えのスケジューリングにかかる計算コストや電力コスト、二つのスレッドで物理コアを共有することによるシングルスレッド性能の伸び悩み、といったことからHTTはついに廃止となりました。個人的には第12世代あたりで廃止になってもおかしくなかったと思っていて、遅いくらいだと思います。
HTT廃止に当たり、「Lunar Lake」ではPコア(Lion Cove)はほぼ新規の設計に近いものとなったようです。
HTT廃止と新設計によって、IPC(クロックあたりに実行できる命令数)はMeteor Lake比で14%向上しました。上の性能表でもシングルスレッド性能の高さが伺えます。
Eコアについてはマイクロアーキテクチャが見直され、さらに低電圧動作とすることで省電力かつ高電力効率を実現、どちらかと言えばLP Eコアに近いものとなっています。
動作については新しい処理はまずEコアで動かし、性能が足りなければPコアに移行するという形をとっています。
Meteor LakeではLP Eコア→Eコア→Pコアと3段階だったので、シンプルになりました。
ちなみにLunar LakeはTSMCのN3B(3nmプロセス)で製造されますが、実はN3Bは歩留まりが悪く、全量を予約していたAppleが手放した(AppleはN3Eに変更した)という経緯があるそうで。
さらに後述するMoPもあり、CPU価格はかなり高額になるものと思われます(Intelのプロダクトページではついに希望カスタマー価格が掲載されなくなった)。
Memory on Package
「Lunar Lake」ではCPUのダイ上にメモリが乗っかっています。IntelはMoP(Memory on Package)と呼んでいます。
でも、割とさらっと流されているんですよね。なにせAppleがM1の頃からやっていることですし、Intelも第13世代の頃にASUS「Zenbook Pro 16X OLED」向けにメモリ一体型の特別パッケージ(Core i9-13905H)を提供しています。
そんなわけでMoPについてはいまいち盛り上がっていません。
メーカーからすれば省スペース万歳なのでしょうが(ちなみに「Zenbook Pro 16X OLED」ではスペースに余裕ができたのでdGPUをワンランク上げることができたのだとか)。
肝心のメモリは16GBまたは32GBのLPDDR5X-8533。Core Ultra 5でも32GBのラインナップが用意されています。
また、換装不可と引き換えに、メモリ8GBモデルが強制排除されているのも素晴らしい点と言えます。
新アーキテクチャベースのGPU
「Lunar Lake」のGPUはXe2。第11世代Tiger Lakeから続いたXeベースのアーキテクチャ(Xe-LP→Xe-LPG)が終了し、新アーキテクチャのXe2となりました。
ちなみにXe-LPGのコードネームが”Alchemist”、Xe2は”Battlemage”となっています。ファンタジージョブのABC順ですかね?
大きなポイントはAI向けのXMX(Xe Matrix eXtentions)エンジンを搭載したこと。
単体GPUのArcには搭載されていたのですが、ArcベースのXe-LPGでは削られていた機能です。
AI PCに向けて搭載されたことで、GPUでも最大67TOPSのAI処理能力を手に入れました。
なお、記事執筆時点ではXe2の性能は不明。
3DMark Time SpyのGraphicsスコアが17W動作時で3400、30W動作時で4150という噂はありますが、実機スコアは見当たりません。
■参考
Ryzen 7 7840U(Radeon 780M):2670
Core Ultra 7 155H:3403
GTX 1650 laptop:3443
Ryzen AI 9 HX 370(Radeon 890M):3555
RTX 3050 laptop:4876
AI PC向けの強力なNPU
2023年頃より重視されるようになったNPU(Neural network Processing Unit)。いわゆるAI PCにおけるAI処理にかかわるプロセッサです。
冒頭でも書いていますが2024年6月、Microsoftが新世代AI PCの指標となる「Copilot+ PC」 の要件を発表、その要件の一つが「40TOPS以上のNPU搭載」でした。
Lunar Lakeでは最大48TOPSとなるNPUを搭載することで要件をクリアしました。
ちなみにこのNPUは第4世代扱い。
IntelのNPUは2016年に買収したMovidiusのMyriadシリーズがベースで、第1世代はMyriad 2、第2世代がMyriad X。エンジン数を2個にしたのが第3世代で、さらにエンジン数を3倍の6個にしたのがLunar Lakeの第4世代です。
NPUの場所を6nmプロセスのSoCタイルから3nmプロセスのコンピュート・タイルへと移動したことで、3倍になっても面積を増やさず、さらに動作周波数も向上。エンジン数と動作周波数の二つの要素によって11.5TOPS→48TOPSという、4倍強の性能向上を果たしています。
NPUとCPU(5TOPS)、GPUを合わせると最大120TOPS(INT8)。
GeForce RTX 3060が95TOPS、RTX 4070が233TOPSとされているので、トータルでは結構なパワーです。
とはいえ、これでStable DiffusionがRTX 3060より高速に生成できるというわけではなく(そもそもNPUを絡めた生成環境の構築が整備できていない)、現状ではGPUで動かすかNPUで動かすか選択できる、くらいにとどまっているようです。
とはいえGPUにXMXエンジンのないMeteor Lakeでも(遅いながらも)Stable Diffusionが動くことは実証されていますし、Lunar Lakeではそこそこ実用的な速度で動くのではないでしょうか。
まとめ
「Lunar Lake」は構造・アーキテクチャ・製造プロセスに至るまですべてを刷新したと言えるCPUです。
…この文言、Meteor Lakeでも書いたな…?
薄型・軽量ノート(とUMPC)をターゲットとし、とにかく電力効率を追及したのが「Lunar Lake」なので、ハイパフォーマンスというわけではありませんが、性能表を見る限りでは普通に性能のいいCPUと言えそうです。
メモリ一体型としたことによる省スペースも、バッテリーの大型化や、あるいは筐体そのものの小型化に寄与することでしょう。
問題は、歩留まりの悪さも含めてすべて価格に跳ね返ってくるというだけで…記事執筆時点では20万円オーバーの製品しかないんですよね。これ、Core Ultra 5でも15万円オーバーとかでは…?ゲーミングUMPCとかどうなるんだろう…
ラインナップ詳細
プロセッサーナンバー | コア数(スレッド数) | Pコア | Eコア | GeekBench6(Multi) | GeekBench6(Single) | 標準(Pコア) | 最大(Pコア) | 標準(Eコア) | 最大(Eコア) | L3キャッシュ | グラフィック | Xeコア数(EU数) | GPU最大クロック | XMX AI | NPU構成 | NPU TOPS | 全体TOPS | ベースTDP | 最大TDP |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Core Ultra 9 288V | 8 (8) | 4コア | 4コア | 11084 | 2883 | 3.3 GHz | 5.1 GHz | 3.3 GHz | 3.7 GHz | 12MB | Arc 140V | 8 | 2.05 GHz | 67 TOPS | 6x Gen4 | 48 TOPS | 120 TOPS | 30W | 37W |
Core Ultra 7 268V | 8 (8) | 4コア | 4コア | 11481 | 2903 | 2.2 GHz | 5.0 GHz | 2.2 GHz | 3.7 GHz | 12MB | Arc 140V | 8 | 2.00 GHz | 66 TOPS | 6x Gen4 | 48 TOPS | 118 TOPS | 17W | 37W |
Core Ultra 7 266V | 8 (8) | 4コア | 4コア | 2.2 GHz | 5.0 GHz | 2.2 GHz | 3.7 GHz | 12MB | Arc 140V | 8 | 2.00 GHz | 66 TOPS | 6x Gen4 | 48 TOPS | 118 TOPS | 17W | 37W | ||
Core Ultra 7 258V | 8 (8) | 4コア | 4コア | 10933 | 2719 | 2.2 GHz | 4.8 GHz | 2.2 GHz | 3.7 GHz | 12MB | Arc 140V | 8 | 1.95 GHz | 64 TOPS | 6x Gen4 | 48 TOPS | 115 TOPS | 17W | 37W |
Core Ultra 7 256V | 8 (8) | 4コア | 4コア | 10985 | 2738 | 2.2 GHz | 4.8 GHz | 2.2 GHz | 3.7 GHz | 12MB | Arc 140V | 8 | 1.95 GHz | 64 TOPS | 6x Gen4 | 48 TOPS | 115 TOPS | 17W | 37W |
Core Ultra 5 238V | 8 (8) | 4コア | 4コア | 10332 | 2697 | 2.1 GHz | 4.7 GHz | 2.1 GHz | 3.5 GHz | 8MB | Arc 130V | 7 | 1.85 GHz | 53 TOPS | 5x Gen4 | 40 TOPS | 97 TOPS | 17W | 37W |
Core Ultra 5 236V | 8 (8) | 4コア | 4コア | 10049 | 2660 | 2.1 GHz | 4.7 GHz | 2.1 GHz | 3.5 GHz | 8MB | Arc 130V | 7 | 1.85 GHz | 53 TOPS | 5x Gen4 | 40 TOPS | 97 TOPS | 17W | 37W |
Core Ultra 5 228V | 8 (8) | 4コア | 4コア | 10046 | 2621 | 2.1 GHz | 4.5 GHz | 2.1 GHz | 3.5 GHz | 8MB | Arc 130V | 7 | 1.85 GHz | 53 TOPS | 5x Gen4 | 40 TOPS | 97 TOPS | 17W | 37W |
Core Ultra 5 226V | 8 (8) | 4コア | 4コア | 9881 | 2543 | 2.1 GHz | 4.5 GHz | 2.1 GHz | 3.5 GHz | 8MB | Arc 130V | 7 | 1.85 GHz | 53 TOPS | 5x Gen4 | 40 TOPS | 97 TOPS | 17W | 37W |
コメント
>MoPについてはいまいち盛り上がっていません
PCとしては非常に嫌なポイントですからね…