2024年6月2日、COMPUTEX 2024(2024年6月4日~7日)の前日基調講演でAMDは「Ryzen AI 300」シリーズ(コードネーム:Strix Point)を発表しました。
また、同時にデスクトップ向けのRyzen 9000シリーズについても発表しています。




ラインナップ
モデル | コア/スレッド数 | 構成 | Zen5 ベース | Zen5 Boost | Zen5c ベース | Zen5c Boost | GPU | GPUコア数 | GPUクロック | NPU | 合計TOPS | L2キャッシュ | L3キャッシュ | TDP | cTDP |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Ryzen AI 9 HX 375 | 12 (24) | Zen5×4+Zen5c×8 | 2.0 Ghz | 5.1GHz | 2.0 Ghz | 3.3GHz | AMD 890M | 16 | 2.9 GHz | 55 TOPS | 85 TOPS | 12MB | 24MB | 28W | 15-54W |
Ryzen AI 9 HX 370 | 12 (24) | Zen5×4+Zen5c×8 | 2.0 Ghz | 5.1GHz | 2.0 Ghz | 3.3GHz | AMD 890M | 16 | 2.9 GHz | 50 TOPS | 80 TOPS | 12MB | 24MB | 28W | 15-54W |
Ryzen AI 9 365 | 10 (20) | Zen5×4+Zen5c×6 | 2.0 Ghz | 5.0GHz | AMD 880M | 12 | 2.9 GHz | 50 TOPS | 73 TOPS | 10MB | 24MB | 28W | 15-54W |
モデル | コア/スレッド数 | 構成 | Zen5 ベース | Zen5 Boost | Zen5c ベース | Zen5c Boost | GPU | GPUコア数 | GPUクロック | NPU | 合計TOPS | L2キャッシュ | L3キャッシュ | TDP | cTDP |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Ryzen AI 9 HX PRO 375 | 12 (24) | Zen5×4+Zen5c×8 | 2.0 Ghz | 5.1GHz | 2.0 Ghz | 3.3GHz | AMD 890M | 16 | 2.9 GHz | 55 TOPS | 85 TOPS | 12MB | 24MB | 28W | 15-54W |
Ryzen AI 9 HX PRO 370 | 12 (24) | Zen5×4+Zen5c×8 | 2.0 Ghz | 5.1GHz | 2.0 Ghz | 3.3GHz | AMD 890M | 16 | 2.9 GHz | 50 TOPS | 80 TOPS | 12MB | 24MB | 28W | 15-54W |
Ryzen AI 9 PRO 360 | 8 (16) | Zen5×3+Zen5c×5 | 2.0 Ghz | 5.0GHz | 2.0 Ghz | 3.3GHz | AMD 880M | 12 | 2.9 GHz | 50 TOPS | 72 TOPS | 8MB | 16MB | 28W | 15-54W |
ざっくり性能表
※Geekbenchの集計値に基づいています
新要素
命名規則の変更
「Ryzen AI 300」シリーズからは命名規則が変更されています。
前回変更は2022年9月にRyzen 7000シリーズの時。当時は「今後5年間は利用する」との話でしたが、2年弱での変更となりました。
とはいえChatGPTの登場が2022年11月なので、それ以前に生成AIの急速な普及し、CPUに求められる要素が激変することを予測することは難しかったでしょう。
「Ryzen AI 300」シリーズは名称の通り、AIに重点を置いています。
300番台なのは、「Ryzen 7040シリーズ(XDNA)」を第1世代、「Ryzen 8040シリーズ(性能向上版XDNA)」を第2世代とした第3世代と位置付けているため。
Zen5とZen5cアーキテクチャ
「Ryzen AI 300」シリーズはZen5+Zen5cのハイブリッドアーキテクチャを採用しました。
AMDはこれまで単一アーキテクチャで通していたので、異種混合は初めてです。
とはいっても種を明かしてしまうと、Zen5cは設計はZen5と全く同一で、L3キャッシュが4コアあたり16MBから、8コア当たり8MBへと削減されたことだけが違うという、実質同じアーキテクチャで異種混合ともいえないシロモノだったりします。
それでもL3キャッシュの削減によって1コア当たりの面積は30%減だそう。キャッシュがどれだけ面積をとっているかがよく分かります。
製造プロセスはTSMC N4X(4nm)。Ryzen 8040シリーズがTSMC N4で、N4とN4Xの差は6%の性能改善、6%のトランジスタ密度向上とされています。
参考 TSMCが初のHPC向けプロセス、その名は「N4X」:日経クロステック
内部的には、命令実行の並列化を強化して後段の実行ユニットを暇にさせない、実行ユニットの強化、スケジューラーの改善、実行後のリオーダーバッファ(AMDでは「Instruction Retire Queue」と呼ぶ)の増加(320命令分→448命令分)、浮動小数点演算はネイティブ512bit化、L1データキャッシュの拡大(8way32KB→12way48KB)など、ほぼ全面的に、特にボトルネックとなりがちだった部分は重点的に手が入っています。
相当の改良を重ねた結果、同コア数&同クロック設定でZen4比平均16%のIPC(クロックあたりの命令実行数)向上を果たしたとのこと。
ちなみにIntelは「Lunar Lake」においてハイパースレッディングを廃止し、シングルスレッド性能を向上させましたが、AMDはSMT(Simultaneous Multi-Threading、要はハイパースレッディングと同等の技術)は継続させる方針です。
「SMT有効化で得られる性能向上は少なく見積もっても20%、最大で50%なので、面積、消費電力両方のコスト対効果から見ても,排除する理由は見当たらない」とのことで、ゲームなどのシングルスレッド性能重視アプリケーションの性能伸び悩みについては「将来的にはスレッドとCPUコア割り当てのスケジューリング精度の向上で対策できるであろう」としています。
RDNA3.5
グラフィックはRDNA3からRDNA3.5へと変更。
基本的なアーキテクチャはRDNA3と変わらず、電力効率が改善されたリフレッシュ版RDNA3とでも呼べるものになるようです。
変更が少ない代わりにAMDが取った手段が、コア数の増加。Ryzen 8040シリーズでは最大12だったCU数を、最大16にしました。単純計算で1.33倍の性能向上です。脳筋的発想ですね。
とはいえ現実には2割増し程度が精いっぱいのようで、ノート側のTDP設定によってはRyzen 7 8840HS(AMD 780M)と同等程度にしかならない場合もあるようです。
XDNA2
NPUについては、XDNAからXDNA2に世代交代。演算能力では最大5倍,電力性能比は2倍に向上しました。
XDNAはAMDが2022年に買収したXilinxのVersal ACAPというAIエンジンがベースとなっています。
参考 Zen 5に搭載するAIエンジンのベースとなったXilinxの「Everest」 AIプロセッサーの昨今:ASCII
内部的にはAIEタイルと呼ばれるコンピュートタイルとメモリタイルから構成されていて、内部メモリ(メモリタイル)にデータを展開することで、メインメモリのアクセスを減らしています。
XDNAの10TOPSから、XDNA2は50TOPSと大幅にアップしているわけですが、XDNA2ではAIEタイルとメモリタイルがそれぞれ1.6倍、AIEタイル1つあたりの演算器が2倍となっていて、この時点で単純計算で3.2倍。ここに動作クロック引き上げが入って5倍の性能向上となっているそう。割と力業でした。
AMDはXDNA 2に対応した新しいAIソフトウェア開発キット「Ryzen AI Software 1.2」を提供。現時点では1.4(2025年第1四半期提供予定)まで計画されています。
まとめ
「Ryzen AI 300」シリーズは初のモバイル向け12コア、初のグラフィック12CU、「CoPilot+ PC」に対応したNPUと、全面的に刷新されていますが、その実態をみるとGPUとNPUはほぼ力業です。
PCIeも4.0までのままで、5.0には対応していなかったりと、インターフェース周りの遅れも気になるところ。
また今回「Ryzen AI 300」シリーズはTDP28Wの上位モデルのみという狭いラインナップで、ミドル~ローエンド、あるいはTDP55Wクラスのハイエンドについては提供されません。
Intelの「Lunar Lake」がTDP15Wのみで、うまくかぶらないようになっているとも言えますが、これはあくまで結果論でしょう。
リークというか噂レベルの話では、以下のように言われています。
・下位モデルとなる”Krackan Point”(最大8コア8CU)が2025年初めに登場。
・TDP55Wクラスには最大16コア40CUなRyzen AI Max+およびRyzen AI Max(コードネーム:Strix Halo)が2025年上半期に登場。
・また、デスクトップ向けCPUをモバイル向けにパッケージングしたRyzen 7045シリーズの後継として、”Fire Range”という製品が2025年上半期登場
モバイル向けのZen5世代が本格的に動き出すのは2025年からということですね。
というか、IntelにしろAMDにしろ「Copilot+ PC」に対応したCPUをとりあえず用意した上で新要素を試している感が強いわけで。
これがCPU開発の本流上にあるのか、実は支流だったのか、それが分かるのは2025年以降になりそうです。
関連リンク
AMD Ryzen AI:AMD
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