MINISFORUM「UM690L Slim」はRyzen 9 6900HXを採用した、Ryzen 6000シリーズにおける最上位となるミニPCです。
アーキテクチャはZen3+で、記事執筆時点の現行世代(Zen5)からすると2世代前となりますが、最上位CPUだけあって現在でも十分に通用するだけの性能を持っています。
価格帯的には以前にレビューした「UM760 Slim」に近いため、今回は「UM760 Slim」と比較しながらレビューしていきたいと思います。

当ブログの方針として、悪い点も包み隠さず書いていきます。
MINISFORUM UM690L Slim

CPU | Ryzen 9 6900HX |
---|---|
メモリ | 16~32GB LPDDR5-6400 |
ストレージ | 1TB M.2 NVMe SSD |
インターフェース | USB Type-C(USB4)×1 USB3.2 Gen2×2 USB 2.0×2 HDMI 2.1 DisplayPort 1.4 2.5GbE 有線LAN×1 オーディオジャック |
wi-fi | Wi-fi 6E+BT5.3 |
電源 | 120W (19V / 6.32A) |
サイズ | 130×126.5×50.4mm |
重さ | 0.67kg |
GoodPoint
✔ Zen3+のRyzen 9でグラフィック性能が高め
✔ OEMライセンス
✔ USB4対応
✔ デュアルGen4 SSD対応
BadPoint
✖ メモリ増設不可
✖ シングルスレッド性能がやや低め
パッケージ
・電源アダプタ
・電源ケーブル
・VESAマウンタ
・予備ゴム脚
・HDMIケーブル
・マニュアル
・保証案内
「UM690L Slim」のインターフェース
・電源ボタン
・USB3.2 Gen2×2
・オーディオジャック
・電源ジャック
・2.5GbE 有線LAN
・HDMI 2.1
・USB4
・DisplayPort 1.4
・USB 2.0×2
「UM690L Slim」の内部
内部はオンボードメモリ(ヒートシンク下)、M.2 SSD(2280)×2スロット、M.2スロットの下にWi-fiカードがあります。
M.2 SSD(2280)×2はどちらも2280サイズ。
「UM690L Slim」のパフォーマンス
レビュー機のスペック
レビュー機のスペックは以下の通り。
CPU | Ryzen 9 6900HX |
---|---|
グラフィック | AMD Radeon 680M |
メモリ | 32GB(8GB×4) LPDDR5-6400 |
ストレージ | 500GB Gen4 SSD |
※現行の販売品はストレージが1TBとなっていますが、サンプル機では500GBでした。
ストレージ
ストレージはCrucial CT500P3PSSD8。
P3 Plusシリーズの500GBのGen4 SSDで、リード4,700MB/s、ライト1,900MB/sとされています。
実測値はリード4,820MB/s、ライト1,910MB/sで、仕様を上回る速度を出しました。
ランダムリードが43MB/sと低く、細かな読み出しの多いベンチマークではスコアに影響しそうです。
総合
PassMarkは旧バージョン(v9)と新バージョン(v11)の両方を掲載。比較はv11で行っています。
マルチスレッド性能はかなり高く、「UM760 Slim」(Zen4世代で6コア12スレッドのRyzen 5 7640HS)と比べると9.9%上回っています。
TDPが違いますが、UMPCで良く採用されたRyzen 7 7840Uも4.6%上回っています。
一方でシングルスレッドスコアは6~8%下回っていて、アーキテクチャの世代差を感じますね。
前世代(Ryzen 9 5900HX)比だと、シングルで6.4%、マルチで5.1%上回り、次世代(Ryzen 9 7940HS)比だとシングルで10%、マルチで20%下回る結果となっています。
CPU


上段:マルチスレッド、下段:シングルスレッド
CPUのレンダリングパフォーマンスを調べるCINEBENCHでも、傾向としてはPassMarkと同じです。
高負荷の時間が長い分、TDPの高いHX/HSシリーズの方が、スコアが高く出る傾向のようです。
GPU


DirectX 11のFire Strikeと、DirectX 12のTime Spyでは、ベンチマークによって順位が入れ替わっています。
Ryzen 7000シリーズでDirectX 12に対する最適化が進んだ結果とみることができそうです。
外観
パッケージ
ゲーミングっぽい雰囲気だった「UM760 Slim」に対して、外箱は茶箱。
側面のラベル。
最近採用の増えている、引っ張って開けるテープ。
梱包材も緩衝材も紙でできていて、全部リサイクルできるようになっていました。
この変更は予想外でしたが、非常にいい取り組みだと思います。
パッケージ全体。
付属品
マニュアルはサポートの案内、注意事項などが書かれた付録の2種類。
一部中華フォントが残っているのと、文言の一部が機械翻訳のような雰囲気となっています。
このことはメーカーでもすでに把握していて、順次修正版に切り替わるとのこと。
VESAマウンタとHDMIケーブル、予備のゴム足。
予備のゴム足は「UM760 Slim」でも付属していたので、MINISFORUM製品には付属するようになったのかも。
電源アダプタ。
プラグは3ピンではなく2ピン+アースとなっています。
出力は19V/6.32A(=120.08W)。
筐体
本体全景。
天板のロゴはMINISFORUM製品共通ですね。
インターフェースは前後のみ。
排気口は背面上部。
左右は吸気口が大きく開いています。
ちょっと見えづらいですが、底面にはSSD・メモリ用のファンが見えています。
重量は本体のみで594g、電源アダプタ込みで933.5g。
比較
「UM760 Slim」とはおそらく共通の筐体を使用しています。
インターフェースも「UM760 Slim」と全く同じです。
底面くらいしか見分けるポイントがない(ラベルの型番と、スリットから見えるメモリ)ので、途中で取り違えて撮影をやり直したという裏話があったり。
内部構造
内部にアクセスするにはゴム足の下のネジを外します。
底面蓋のファンのコネクタがつながっているので、破壊しないように注意。
底面蓋。ファンの固定フレームはSSDヒートシンクを兼ねています。
ファンの半分はヒートシンク冷却に使い、残り半分でボード表面にエアフローを生む構造です。
内部全体。
「UM690L Slim」はメモリオンボードなので、通常メモリスロットがある部分にはメモリ用のヒートシンクが固定されています。
SSDは2280×2のデュアルストレージに対応。
メモリは4チップ構成。8GB×4(=32GB)のクアッドチャネルとなっています。
システム
起動前
UEFIはグラフィカル。
ファンは両方の回転数を取得できています。
恒例のバックアップ。
使用したのは「Macrium Refrect Free」で、バックアップサイズは47.24GBでした。
システム情報
セットアップは最初からローカルアカウントを作成できるモードになっていました。
デスクトップ。
余計なものはありません。
ライセンスはOEM_DM。正規ライセンスですね。
OSはWindows 11 Pro 24H2。
HWiNFO
CPUはTDPが45W、PL1が60W、PL2が65W。
メモリはMicronチップで、内部画像で見た通り、一枚当たり8GBとなっています。
ゲームベンチマーク
[中量級] Street Fighter 6
2023年6月に発売し、全世界で460万本(2025年3月時点)を売り上げたストリートファイター6。
思ったより動作し、”LOW/FHD”でもほぼ60FPSで動作。少なくとも画質にこだわらなければFHD解像度でもプレイできるようです。
一つ上の”NORMAL/FHD”ではほぼ30FPSのため、実プレイでは支障が出そうです。
「UM760 Slim」ではエラーとなった”HIGHEST/FHD”も完走しました。
[中量級] FF XIV 暁月の終焉
設定 | スコア | FPS | 評価 |
---|---|---|---|
1920×1080 最高品質 | 5996 | 41.92 fps | 普通 |
1920×1080 高品質 | 7365 | 52.34 fps | やや快適 |
1920×1080 標準 | 8542 | 61.98 fps | 快適 |
1280×720 高品質 | 9409 | 69.59 fps | 快適 |
1280×720 標準 | 10203 | 76.29 fps | 快適 |
中量級タイトルでは、かなりの高スコアを記録。設定次第ではFHD(1080p)でも60FPS前後でプレイできますし、”FHD/高品質”でも50fpsを超えているので、それほど違和感なくプレイできそうですね。
[重量級] FF XV Windowsエディション
設定 | スコア | 評価 |
---|---|---|
1920×1080 高品質 | 2518 | やや重い |
1920×1080 標準品質 | 3558 | 普通 |
1920×1080 軽量品質 | 4684 | やや快適 |
1280×720 標準品質 | 5913 | やや快適 |
1280×720 軽量品質 | 7498 | 快適 |
重量級タイトルだとさすがに厳しいものの、“1920×1080 軽量品質”であればぎりぎりプレイできそう。
消費電力・稼働時間・騒音・温度
消費電力
アイドル時 | 7.0~8.8W |
---|---|
画面オフ時 | 0.5~5.4W |
スリープ時 | 0.03~3.4W |
CINEBENCH(S) | 30.8W |
CINEBENCH(M) | 85.6W / 78.4W |
最大 | 90.3W / 83.1W |
消費電力は瞬間最大で90.3W、PL2の時間を過ぎると80~83Wくらいで安定します。
不思議なのが画面オフ時。
スリープしているわけではないのに消費電力が大きく下がります。
この下がり方はノートPCなどでは見られますが、ミニPCではあまり見ないパターンなので、ノートPC寄りの電力設定なのかも。
騒音
状況 | 音量 |
---|---|
電源オフ | 35.6dB |
アイドル | 36.1dB |
最大 | 40.8dB |
最大(背面) | 42.3dB |
騒音レベル[dB] | 音の大きさのめやす | 自室内の聞き騒音 | |
---|---|---|---|
うるさい | 70 | 掃除機 騒々しい街頭 |
非常にうるさい |
60 | 普通の会話・チャイム 時速40キロの自動車の内部 |
非常に大きく聞こえうるさい 声を大きくすれば会話ができる |
|
普通 | 50 | エアコンの室外機 静かな事務所 |
大きく聞こえる 通常の会話は可能 |
40 | 深夜の市内 図書館 |
多少大きく聞こえる 通常の会話は十分に可能 |
|
静か | 30 | ささやき声 深夜の郊外 |
非常に小さく聞こえる |
20 | ささやき 木の葉のふれあう音 |
ほとんど聞こえない |
「UM690L Slim」はCPUファンとSSDファンの二つの騒音源を持っています。
CPUファンは低めのヒューという音で回転数によって音量が変化、SSDファンは定速でやや高めの軸音が聞こえます。
アイドル時はCPUファンは50cm離れたところから聞こえるかどうかくらいで、SSDファンの軸音が少々耳障りに感じます。
最大音量は結構耳につく音量ですが、SSDファンの軸音がかき消されて、逆に耳障り感がなくなります。
そのため、集中の度合いによっては全く気になりません。
FF14ベンチマーク時、つまり主としてグラフィックに負荷がかかっている時は38.5dB前後となり、そこそこの音量ではありますが、スピーカーなりイヤホンなりで音を出していれば無視できる程度です。
温度
HWiNFOのデータより、「UM690L Slim」の最大ジャンクション温度は92℃、HTC温度制限は115℃、サーマルトリップ制限は125℃と、かなり高めに設定されています。
温度はHWMonitorとHWiNFOで測定。
どちらも最大92.2~92.3℃となりました(ずれがあるのは測定間隔がちがうため)。
TDPは45W設定のはずですが、そんなの知ったことかとばかりに、60Wで動作するので、その分温度も高くなっていました。
この温度はCINEBENCHとFF14ベンチマークでCPUとGPUの両方に負荷をかけ続けた状態でようやく出るような数字で、FF14ベンチマークだけだと80度前後で安定していました。
まとめ
「UM690L Slim」は2世代前のRyzen 9 6900HXを搭載しつつも、高速なオンボードメモリを採用するなどの工夫によって思った以上にパワーを発揮しています。
実はベンチマーク前は「いまさらRyzen 6000シリーズかぁ」と思っていたのですが、意外な伏兵でした。
シングルスレッド性能はさすがに世代相応でしたが、グラフィック性能は存外に高く、中量級タイトルであれば普通にプレイできそうです。
記事執筆時点での公式ストア価格はメモリ16GBモデルが61,590円、32GBモデルが67,990円。
トータルでは半ランク下くらいになる「UM760 Slim」はメモリ16GBで58,390円、Amazonだと55,182円。
メモリ容量が同じなら、性能差(だいたい10%差)と価格差(10.4%)が同じ程度なので、「UM760 Slim」のちょっと上という位置づけ
グラフィック性能を優先するなら「UM690L Slim」、シングルスレッド性能を優先するなら「UM760 Slim」といった感じで決めると良さそうです。
関連リンク
付録
ベンチマーク結果一覧
メーカー | MINISFORUM | |
---|---|---|
モデル名 | UM690L Slim | |
CPU | Ryzen 9 6900H | |
GPU | RDNA2 | |
メモリ | 8GB×4 | |
ストレージ | 512GB Gen4 | |
PassMark 9 | Total | 6033.1 |
CPU Single | 3383 | |
CPU Multi | 23824.5 | |
2D | 989.8 | |
3D | 7083.7 | |
Memory | 1811.8 | |
Disk | 17094.1 | |
PassMark 11 | Total | 6204.2 |
CPU Single | 3570 | |
CPU Multi | 25796.9 | |
2D | 956.9 | |
3D | 6724.2 | |
Memory | 2457.4 | |
Disk | 19752.6 | |
3DMark | TimeSpy | 2833 |
Graphics | 2548 | |
CPU | 7781 | |
FireStrike | 7194 | |
Graphics | 7928 | |
Phisics | 24187 | |
Combined | 2618 | |
NightRaid | 28634 | |
Grapihics | 34930 | |
CPU | 14166 | |
WildLife | 16790 | |
Graphics | 100.54 fps | |
SteelNomad | 452 | |
Graphics | 4.53 fps | |
SteelNomadLight | 2581 | |
Graphics | 19.12 fps | |
CINEBENCH R15 | OpenGL | 150.34 fps |
CPU(M) | 2238 cb | |
CPU(S) | 249 cb | |
CINEBENCH R23 | CPU(M) | 13596 pts |
CPU(S) | 1599 pts | |
CINEBENCH 2024 | CPU(M) | 725 pts |
CPU(S) | 89 pts | |
CrystalMark | Mark | 1334586 |
ALU | 381876 | |
FPU | 188920 | |
MEM | 162112 | |
HDD | 68338 | |
GDI | 17638 | |
D2D | 6380 | |
OGL | 509322 | |
CrystalMark Retro | All | 19986 |
CPU-Single | 11051 | |
CPU-Multi | 106739 | |
2D-text | 7515 | |
2D-square | 14133 | |
2D-circle | 12365 | |
2D-image | 11472 | |
3D-scene1 | 100 | |
3D-scene2 | 100 | |
3D-scene1-CPU | 65062 | |
3D-scene2-CPU | 64974 | |
GeekBench5 | Single | 1429 |
Multi | 9027 | |
OpenCL | 35448 | |
OpenCL(dGPU) | – | |
GeekBench6 | Single | 2065 |
Multi | 9692 | |
OpenCL | 32509 | |
OpenCL(dGPU) | – | |
PCMark | ALL | 6215 |
Essensial | 9379 | |
Productivity | 7850 | |
DigitalContent | 8849 | |
VR Mark | 3298 | |
DQ(DX9) | 1920・最高 | 10070 すごく快適 |
1280・標準 | 10872 すごく快適 |
|
FF XIV(DX11) 暁月の終焉 |
1920・最高 | 5996 普通 41.92 fps |
1920・高 | 7365 やや快適 52.34 fps |
|
1920・標準 | 8542 快適 61.98 fps |
|
1280・高 | 9409 快適 69.59 fps |
|
1280・標準 | 10203 快適 76.29 fps |
|
FF XIV(DX11) 黄金の遺産 |
1920・最高 | 3765 設定変更 26.16 fps |
1920・高 | 6450 やや快適 45.55 fps |
|
1920・標準 | 6499 やや快適 45.89 fps |
|
1280・高 | 8822 快適 66.78 fps |
|
1280・標準 | 9353 快適 70.44 fps |
|
FF XV(DX11) | 1920・高 | 2518 やや重い |
1920・標準 | 3558 普通 |
|
1920・軽量 | 4684 やや快適 |
|
1280・標準 | 5913 やや快適 |
|
1280・軽量 | 7498 快適 |
|
ブラウザ | jetstream2 | 258.134 |
BaseMark | 1527 | |
WebXPRT4 | 263 | |
MotionMark | 1907.43 | |
SpeedMeter2.0 | 280 | |
SpeedMeter3.0 | 16.6 | |
Octane | 79422 | |
Octane Multi | 652799 |
コメント