今から半年ほど前の2018年3月、Linaroより世界初のNPU(Neural Network Processing Unit)内蔵プロセッサ「Kirin 970」を搭載した96Boards規格準拠の高性能開発ボード「Hikey 970」が発表されました。
スペック
比較のため、前世代の「HiKey 960」のスペックを併記します。
model | HiKey 970 | HiKey 960 |
メーカー | Linaro | |
発売日 | 2018/06 | 2017/04 |
価格 | 299ドル | 239ドル |
価格(日本円) | 30,974円 | |
CPU | HiSilicon Kirin 960 (2.36GHz A73 x4 + 1.8GHz A53 x4) | Kirin 960 (2.3GHz A73 x4 + 1.8GHz A53 x4) |
GPU | Mali-G72MP12 | Mali-G71MP8 |
メモリー | 6GB LPDDR4X-1866 | 3GB LPDDR4 |
サポートOS | Android Linux | |
有線LAN | 1GbE x 1 | × |
Wi-fi | 802.11b/g/n(2.4/5GHz) アンテナ付き | |
Bluetooth | 4.1 | |
チップ | WL1837 USB5734 | WL1837MOD |
ストレージ | 64GB UFS2.1 microSD | 32GB UFSフラッシュ microSDHC |
USB | 2.0 Type-C x 1(OTG) 2.0 Type-A x 1 3.0 Type-A x 2 | 2.0 Type-C x 1(OTG) 3.0 Type-A x 2 |
GPIO | 40pin x 1 60pin x 1(高速) | |
映像 | HDMI(1.4 1080p/60Hz) DSI(4lane) | HDMI(1.4 1080p) DSI(4lane) |
カメラ | MIPI CSI(4lane) x1 MIPI CSI(2lane) x1 | |
オーディオジャック | × | × |
その他インターフェース | PCIe gen2 M.2 Key-M | |
消費電力 | ||
電源 | DC 12V/2A | |
幅 | 105.26mm | 85mm |
奥行き | 100mm | 55mm |
高さ | 10mm | |
その他 | GPS / GLONASS NPU搭載 |
特徴
「Hikey 970」に搭載されるSoC(System on Chip)の「Kirin 970」は、スマホメーカーのHuaweiが2017年9月1日、IFA 2017の基調講演で発表されました。
「Kirin 970」には世界で初めてAI処理を専用に行なうプロセッサ(=NPU)が内蔵されています。
講演を行ったHuaweiのリチャード・ユー氏によれば、AIは今後スマホに欠かせないものとなっていくが、現状のAIは主にクラウドアプリケーションなので、通信の分のタイムラグが発生する。モバイル環境におけるAIはデバイス上のAIとクラウド上のAIを合わせたものになっていくとのこと。
「Kirin 970」を搭載するスマホ、Huawei Mate 10では機械学習(ディープラーニング)を活用した画像処理フィルターにこのNPUが使われているので、NPUが担うAIとはディープラーニングのことだとわかります。
前述の基調講演では、「200枚の写真を認識する性能は、CPUに比べて20倍以上」と説明されています。
画像認識には判別の根拠となる学習データが必要なため、Huawei Mate 10が認識できるのは文字、食べ物、青空、雪、海、犬、ネコ、夕暮れ、花、人物など13種類となっていました(発表時点)。
確かに、カメラに映ったものをすべてクラウド上に問い合わせるのは無理があるというか、「そうじゃない」感があります。
NPUは画像処理以外にもタスクスケジューリングやメモリアロケーション、UIのグラフィックス処理など汎用的に使えるように設計されているとのこと。
NPU以外では、2.36GHzのCortex-A73が4コア、1.8GHzのCortex-A53が4コアと、構成だけを見れば前世代の「Kirin 960」と変わりありません。
しかし「Kirin 960」は16nmプロセス、「Kirin 970」は10nmプロセスとなっており、省電力化、高性能化を果たしています。
「Kirin 960」と「Kirin 970」は複数のブログで性能比較がされており、ベンチマークスコアで言えば2割ほどの向上となります。
モデムはカテゴリ18(Cat.18)のLTEモデムで、4×4 MIMO、256QAMに対応し、最大1.2Gbps出ますが、そもそも通信相手側の環境がまだそろっていません。
プロセスルールは前述の通りTSMCの10nmで、トランジスタ数は55億個。
インテルがx86プロセッサ40周年として発売した「Core i7-8086K Limited Edition」のトランジスタ数が30億個という噂なので、実は2倍近くのトランジスタを搭載しています。
とはいえ、「Kirin 970」はNPUのダイ面積がCPU部分の半分程度とのことなので、CPUコア部分だけで言えばそれほど差はないのかと思います。
話を「HiKey 970」に戻すと、インターフェースは上の画像のようになります。
メモリは6GBとSBCとしては大容量、オモテ面にはminiPCIeスロット、ウラ面にはM.2 M-Keyスロットとこちらも豪華。
比較用に前世代の「HiKey 960」を載せますが、大きさも配置も全く違っています。
端子部のアップです。USB側はなぜかtype-Cだけ基盤を削って埋め込む形になっています。
左右のスペースが狭いので、幅の広い機器をつなぐと隣に干渉しそうです。
一番背の高いLANポートは基板上に載っています。どういう基準なんだろう…
ブロックダイアグラムはこんな感じ。
高速コネクタというのがCSIとDSI、USBで構成されていることがわかります。これ、ひとつのコネクタにまとめる必要あるのかな…
最後はパッケージです。ヒートシンクは最初から装着されているようです。
まとめ
たびたびブログ内でも公言していますが、がじぇっとりっぷは100ドル(or 1万円)を超えるSBCというものは、用途特化とか耐環境性強化などを除いて懐疑的に見ています。
汎用性のあるSBCを求めるなら、2〜3万円の安いエントリークラスのノートPCを買ったほうがバッテリーも画面もキーボードもついてきますし、集積度の高いクラスタを組むにしても現状だとarmコアよりx86 CPUのほうが現実的だからです。
実験用クラスタであれば100ドルを切るSBCで十分ですし。
そんな中、299ドル(約33000円)と高価な部類となる「HiKey 970」を紹介したのは、今まで「Kirin 970」について書いていなかったことと、2018年9月3日にIFA 2018内で「Kirin 980」が発表されたのでここで書いておかないと書く機会がなくなるなと思ったからです。
今回紹介するにあたって下調べをしていて思ったのは、「HiKey 970」はNPUを使ったオンデバイスAIを使ったアプリ開発なんかには良さそうだなと。
つまり、用途特化SBCにあたっていたわけです。
IFAでリチャード・ユー氏が講演した通り、AIは当たり前のようにスマホに組み込まれるようになっています(現状は主にクラウドAIですが)。
高額ではありますが、オンデバイスAI開発環境の候補の一つにいかがでしょうか。
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