2022年1月3日、Arrotrack TechnologyはクラウドファンディングサイトのKickstarter上で、5ベイ+4スロットのホームクラウドストレージ「Storaxa」のファンディングを開始しました。
Fully Customizable Home Cloud Storage with Remote Access NAS:Kickstarter
※先に書いておくと価格設定的に詐欺ファンディングっぽい感じ(あくまで個人的感想です。本物の可能性もあります)なのですが、仕様自体は面白かったことと、引っかかる人がいそうなのでネタ兼注意喚起として掲載することにしました。
2023年1月18日追記:コメント内にてコスト内訳等が公開されましたので、記事の最後にまとめました。
スペック

■ Storaxa | |
CPU | Pentium N6005 |
---|---|
メモリ | 16GB DDR4-3200(2933で動作) |
ストレージ | 128GB 2.5インチ SSD 2.5/3.5インチベイ×4 M.2 NVMe×4 |
インターフェース | USB Type-C(Gen2)×1 USB3.2 Gen2×3 USB2.0×2 HDMI DisplayPort 2.5GbE 有線LAN×4 SDXC microSDXC |
wi-fi | 802.11ax+BT5.1 |
電源 | 120W |
サイズ | 200×180×260mm |
特徴
Arrotrack Technologyは中国の広州市に拠点を置く、分散ホームクラウドというカテゴリに熱心なギーク集団だそうで、「Storaxa」が初製品となります。
何というか「『俺の欲しいガジェット』を作ったんだけど、他にも欲しい奴いるだろ?」な雰囲気を感じます。
というか、クラウドファンディングって本来はこういうものだよね。
「Storaxa」も何か独自のことをしているわけではなく、NAS向けの市販のmini-ITXボードに、「俺の考えたNASケース」をセットにしたような感じです。
CPUについて
「Storaxa」のCPUはPentium Silver N6005。
Jasper Lake世代の4コア4スレッドCPUで、TDPは10Wです。
PassMarkのCPUスコアは5400オーバー。第8世代Core i5並みのスコアと、TDPを考えれば相当にパワフルです。
グラフィックアーキテクチャはUHD Gen11。
N6005のグラフィックベンチマークはほとんどないものの、姉妹SKUとなるPentium N6000(同じ32EUで動作周波数がやや低い)ではFire Strikeのグラフィックスコアが723でした。
動作周波数差を考えても、800弱くらいになると思われます。
TDP15WのCore i3-1005G1のスコアが1172なので、Ice Lake世代にも届かない程度です。
いや、NAS用途なんだから十分といえば十分なんですけどね。
メモリとストレージ
メモリは16GB(8GB×2)のDDR4-3200。CPUの制限で、DDR4-2933として動作します。
2スロットタイプなので換装することもできます。検証では64GBまで行けたとのこと。まぁ、Pentiumレベルでそんなに積んでも持て余しそうですが。
がじぇっとりっぷが検証した限りでは、Jasper Lakeは16GBオーバーはシングルランクしか認識しませんでした。

ストレージは128GBの2.5インチSATA SSD。
ボード上にSATAが6ポートあるので、そのうちの1ポートをOS用に割り当てているようです。
必要があれば自分で入れ替えることもできます。
なお、Pentium N6005はSATAが2ポートしかないので、残りはPCIe to SATAチップ(JMB585)経由となります。
NASとしては2.5/3.5インチが5ベイに、M.2 NVMeが4スロット。
M.2 SSDはASMedia社のASM2812XというPCIeスイッチチップ経由でU.2ポートに接続されます。
U.2は最大でPCIe Gen3 x4接続(約32Gbps)なので、理論値でいえば各M.2 SSD同時使用時でも1GB/s程度の転送速度が見込めます。
なおボードにもM.2スロットがあり、コメントへの返信でそちらも使えることが示唆されています。
理論上では22TB HDD×5、8TB M.2 SSD×4で、トータル142TBまで扱えます。馬鹿じゃないの?
推奨する使い方だと22TB HDD×4でRAID5を組み(66TBのストレージプール)、4TB M.2 SSDはRAID0(16TBのストレージプール)とし、16TB HDDをそのバックアップにすることで、合計使用可能容量を82TBとしています。
その他
無線LANはWi-fi 6(802.11ax)対応。コメントによると、チップはQualcomm Qca6391だそう。
おそらく技適はないので国内で使う場合は無線LANカード(M.2 2230)を技適対応品に入れ替える必要があります。
有線LANは2.5GbE×4。チップはIntel i226-Vです。
4ポートあれば足りないということはないと思います。
OSはDebianベースの仮想化特化ディストリであるProxmox VEで、TrueNAS-ScaleとOpenWrtがプレインストールされています。
TrueNASはFreeBSDベースでしたが、DebianベースのTrueNAS-Scaleを採用しているので、Proxmox VEとは相性がよさそうです。
また、Proxmox VEは3.4からZFSをサポートしていて、この点もTrueNAS-Scaleとはかみ合います。
電源は内蔵120Wです。
※2023年1月18日追記:PCIeレーンの振り分けについてコメントがありました。
Pentium N6005の持つ8レーンに対し、2.5GbE×4で各1レーンずつの4レーン、オンボードM.2が各1レーンずつの2レーン、U.2に1レーン、予備が1レーンとのこと。SATA×4のJMB585はどこに…?
外観
正面です。通常はHDDベイ部分がカバーに覆われます。
フロント下部にはUSB3.2Gen2対応のType-CとType-Aが1ポートづつと、SD/microSDカードリーダー(最大312MB/s)があります。
背面です。
クアッド2.5GbEにHDMI+DisplayPort、USBは4ポート(Gen2×2、2.0×2)です。
ストレージベイは正面にHDDベイ、上部にM.2 SSDスロット。
内部のマザーボードです。
がっつりNAS仕様な産業用miniITXボードですね。
ボード上のインターフェースです。
まとめ
「Storaxa」の価格は、記事執筆時点では279ドル(約37,000円)。日本への送料は35ドルです。
…本当に?
一気に胡散臭くなったんですけど?
Pentium N6005で産業仕様のマザーボードに16GBメモリに128GBストレージにケースまで込みで、この値段でいけるの?GMKtec「NucBox 7」ですら3.7万円なんだけど?新興でボリュームディスカウントも効いてなさそうなところが同じ価格でいけるの?
さらにアドオンでは「2台目のStoraxa」が199ドル(約2.6万円)、KingstoneのM.2 Gen4 SSD(2TB)×4が350ドル(約4.6万円)で追加できるのですが。
この価格もおかしくない?
どう考えても原価割れしていると思うんだけど?それとも謎の調達ルートでも持っているの?
「Storaxa」の開発者陣の名前や企業名(Arrotrack)を検索しても情報が全く出てきませんし、数年前に掲載した「Mini PC」(詐欺ファンディング)に似た雰囲気があるなぁと。

こっちも実機らしき写真を載せて信ぴょう性を高めていましたが、4年経った現在も怨嗟のコメントが書き込まれています。
どうも一部のユーザーにだけ実機を送り、実績を作ることで完全詐欺を回避したうえで逃亡したようです。
なので、「Mini PC」と同じような流れになるんじゃないかなと。あくまで想像ですが。
デザインや構造は好みなんだけどなぁ…
というわけで、届くかどうかは賭けになる可能性が高いです。それがクラファンの醍醐味と言ってしまえばそれまでなんですけどね。
これで実はちゃんと利益も出ていて、全バッカーにちゃんとモノが届く可能性もありますが。胡散臭いところがあるということは心にとどめてからファンディングしましょう。
2023年1月18日追記分
詐欺臭いというのは他のユーザーも感じているようで、コメント欄でも言及されています。
これらのコメントに対して、メーカー側が反論、コスト内訳を含めて公開しました。
まず、マザーボードはAliExpressは高額表示されていて、中国国内業者向けサイトでは700元(約1.32万円)であるとして(でも、N5105での価格なんですよね…)、M/Bだけで足が出ることを否定しました。
さらに主要パーツのコストについても公開。M/Bは最低2000ユニットのまとめ買いをすることで1枚当たり80ドル(約1.02万円)にまで抑えたそう。
ケースはオリジナルなので価格は確認できませんでしたが、きっと14ドルで作れるのでしょう。
こうして書かれるとできなくもないのかなぁと考えてしまいますね。一応業者向けサイトを回ってみて、汎用パーツについてはメーカー問わずなら記載の価格程度でできそうだなぁというのは確認しました。中国の国内価格安すぎでは?
ただ、「業者向け価格だとそのくらいで買える!」と主張しているKingstone 2TB×4で350ドルは見つからなかったので、ここはどうなんだろう?
さらにはプロジェクト予算まで公開されました。
他にも、「ゴールが5000ドルは低いんじゃないか?」に対しては「他のプロジェクトを見て5000ドル設定が多かったから」とか、一つ一つ反論を返していて、詐欺臭いファンディングから一転、内情暴露しまくりの面白プロジェクトとなっています(暴露している内容が正しいかはまた別問題ですが)。
ここまでされると、たとえ詐欺だったとしても投げ銭感覚でファンディングしてみたい気がしてきます。
なお、219ドルの”Early Bird”は2000ユニットで締め切るとのこと。
関連リンク
Fully Customizable Home Cloud Storage with Remote Access NAS:Kickstarter
コメント
>>馬鹿じゃないの?
爆笑した。初笑いありがとうございます。
SBCが少なくなって寂しいのですが、
ガジェットの面白さは不滅ですねえ
コメントありがとうございます。
狙って書いたので、反応がもらえてうれしい(笑)
面白そうな製品なんですけど、PCIeの本数が足りないんじゃないかと思うんですよね。
Pentium N6005のPCIeは8本なので、それを2.5GbEx4+JMB585+M.2×2+U.2にどう振り分けるつもりなんでしょうねぇ。
あと、ケースの背面写真を見る限りマザーボードは裏向きになるみたいですね。すごくメンテナンスしにくそう。
コメントありがとうございます。
調べてみると、オンボードM.2→x1接続×2、JMB585→x1接続、U.2→x1接続、i226-V→x1接続×4で、8レーンとしているようです。
1レーン当たり片方向約1GB/sですが、M.2だろうがU.2だろうが2.5GbE(≒300MB/s)以上は必要ないよね?って割り切った振り分けをしている模様。
マザボは逆向きですね。
1年以上前の記事にコメント失礼。
度重なる出荷延期の末、2023年末に「2024年1月第2週に出荷予定」と告知した後反応がなくなり、出荷予定を1ヶ月過ぎたので詐欺が確定的となりました。
細かい経過はRedditにアップデート情報を掲載しているスレがあるのでそちらを見ればわかるかと。
最初から怪しい点が多々見られたキャンペーンでしたが、やはりといった感じです。
2024年現在だとLinxtaarもなかなか香ばしいキャンペーンになっているので注目しています。
コメントありがとうございます。
予想通りと言えば予想通りですね。
Linxtaarも、LinkHubという名前でプロジェクトを出していたときに、そもそもM/B製造元のT-BaoからODM提供を否定されているので、かなり怪しいですね。
ついでに言うとLinkHubはTCLの登録商標で、下調べも中途半端という。改めてLinxtaarという名前で再開しましたが、まぁアウトでしょう
https://aoostar.com/blogs/news/we-firmly-declare-that-we-have-never-authorized-any-third-party-sellers-to-distribute-aoostar-brand-product-motherboards