がじぇっとりっぷでは災害対策の意味合いを込めて、タイムセール記事でポータブル電源を時々紹介しています。
もちろん車中泊やアウトドアでも使えますが、それなりの価格がするだけに多くの人は「持っているに越したことはないけれど…」といった感じで購入をためらっていると思います。
がじぇっとりっぷもその一人だったので、よく分かります。
今回、BLUETTI様のご協力により、実際にポータブル電源を試す機会を得られましたので、実機を通してどんなものかを確認してみたいと思います。
機材を提供いただいたBLUETTI様にはこの場をお借りして御礼申し上げます。
BLUETTI EB55

■ BLUETTI EB55 | |
容量 | 537WHr |
---|---|
定格出力 | 700W(ピーク1400W) |
出力ポート | AC×4、USB-A×4、USB-C×1 シガーソケット、ワイヤレス充電、5521出力 |
充電方法 | AC(コンセント)充電(最大200W) PV(太陽光)充電(最大200W) |
充電時間 | 最短2時間(デュアル充電時) |
充電回数 | 2500回 |
電源アダプタ | 90W |
サイズ | 278×200×198mm |
重さ | 7.5kg |
GoodPoint
✔ 最大700W出力
✔ 最大400Wの電源入力に対応
✔ パススルー機能あり
✔ アース付きプラグも使える(ただしアースなし)
BadPoint
✖ USB給電非対応
✖ スマホアプリ非対応
✖ 付属電源が90W

BLUETTIとは
おそらくほとんどの読者はポータブル電源のメーカーなんて知らないと思います。
BLUETTI(ブルーティ)は2013年に設立された深圳市徳蘭明海新能源(Shenzhen Poweroak Technology)のブランドです。
徳蘭明海は蓄電装置の研究開発に特化した企業で、ポータブル電源の他、業務用蓄電池など取り扱っています。
記事執筆中に、最近中国国内での上場申請も承認された、ユニコーン企業(評価額が10億ドルを超える非上場ベンチャー企業)の一社です。
2021年のポータブル電源出荷台数の世界シェアランキングでは世界4位。各種市場レポートでも主要企業の一つとして名を挙げられています。
ポータブル電源の基礎知識
本題に入る前に、ポータブル電源で使われている言葉や基礎知識について簡単にまとめを。
ピーク電流
電化製品はスイッチを入れた直後に始動電流(突入電流)というものが発生します。
フィラメントが温まるまで抵抗値が低い、コンデンサの充電、モーターの回転開始にかかるエネルギーなど原因としては様々で、始動電流発生時の消費電力は定格消費電力の数倍になることもあります。
最近の製品だと突入電流防止回路が組み込まれていて発生しにくくはなっていますが、必ずしも対策されているわけではありません。
ポータブル電源はこの始動電流を捌けるように設計されており、「EB55」の場合は瞬間最大1400W、ピーク時間0.5秒まで対応できます。
PV充電
PVとはPhotovoltaic Power Generationの略称で、直訳すると光起電性発電、日本語だと太陽光発電のことを指します。海外では一般的にPVの方がよく使われます。
使用可能容量
ポータブル電源の実際に使える容量というのは、「表記容量×放電深度×インバータ変換効率」であらわされます。
リチウム系バッテリーは、一度完全に空にする(過放電)とダメージを負って、充電しても元の容量まで充電できなくなるという特性を持っています。
そのため、完全に空になる前に動作を止めることでバッテリーへのダメージを抑えるという機能があり、どのくらいまで放電するかの設定値が、放電深度です。
BLUETTIの場合、放電深度は90%に設定されているようです。
インバータの変換効率(直流から交流を生み出すので、どうしてもロスが出る)は90%。
つまり「EB55」の場合、537WHr×90%×90%≒435WHrが、実際に使える容量となります。
スマホのバッテリーが大体3.7V/3,000mAh(=11.1WHr)程度なので、スマホ40回分くらい、つまりスマホだけなら一か月程度は使えます。
災害時の目安として、東日本大震災では電気が9割がた復旧するまでに6日、北海道胆振東部地震と阪神淡路大震災では2日かかっています。
台風だと、令和元年房総半島台風では99%復旧までに12日もの日数を要しています。
その辺りを考慮すると、災害時には(電源タップなどを使用して)20台×2日分として活用できますね。
※低温環境や大消費電力動作の場合はもっと低くなります。
正弦波・疑似正弦波
普段意識することはありませんが、交流電源(AC電源)は電圧が波を描いています。
この波の形を正弦波と言います。
しかしバッテリーに保存されている電気は直流なので、機械的には100Vと-100V、0Vで階段状に出力したほうが構造としては楽です。
この時のガタガタの波を疑似正弦波と呼び、最安クラスの格安電源だとこの疑似正弦波での出力となります(もうちょっと細かい階段状の場合もあります)。
しかしながら交流電源で動く電化製品というのは正弦波を想定して作られているため、疑似正弦波だと動作しない、場合によっては故障の原因となる場合があります。
「EB55」のAC出力は純正弦波のため、故障の原因となることはありません。
余談ですが、普段家で使っているコンセントの電気は、少し乱れた正弦波だったりします。
ゆえに一部のオーディオマニアの間では、純正弦波を出力するポータブル電源を使った方が音がいい(ただしインバータの精度による)とか言われることも。逆にポータブル電源内のノイズが乗るとの意見もあって今も議論されていますね。
この流れを受けて、ポータブル発電機を手掛けるHONDAが2019年にシールド材でノイズ対策を施したオーディオ向けポータブル電源を発売し、ごくごく一部の界隈で騒がれました。余談終わり。
外観
箱は段ボールと化粧箱の二重になっていました。
・電源アダプタ
・カーチャージャー to XT60ケーブル
・MC4 to XT60 ケーブル
・ケーブルタイ
・マニュアル類
本体(フロント)。
USBは合計5ポート、ACは4個口です。ACの上2個はアース付きの3極プラグに対応しています(もちろんアースは取れませんが)。
電源は囲み部分ごとに独立していて、長押しでオンオフ。短押しだとLCD表示です。
ちなみにランプは指を離したタイミングで点くので、どのくらい長押しすればいいのか、タイミングが測りにくく。ここは改善してほしいポイントですね。
上部にはワイヤレス充電。
サイドは排気口側にファンがついています。
背面は大型のLED照明となっています。
底面には仕様表。
というか地味に、内部仕様(22.4V/24A)はここにしか書かれていません。
サイズ感としてはこのくらい。
重量は7.5kgなので、1.5Lのペットボトル5本分です。実際は取っ手があるのでそこまでの重さは感じず、5kgの米よりはちょっと重いかなー?くらいです。
電源入力は2タイプで、7909プラグまたはXT60となっています。
最近ではAC+USBのデュアル入力という製品が登場していますが、「EB55」はUSB PD入力には非対応です。
その代わり、7909+XT60のデュアル入力には対応していて、最大400W(200W+200W)での充電ができます。
変換ケーブルは2種類、シガーソケットと、ソーラーパネルでは一般的なMC4をXT60に変換できます。
ソーラーパネルでは他にアンダーソンコネクタも使われることがありますが、その場合は別途アンダーソン to XT60変換ケーブルを購入する必要があります。
右上のシガーソケット12V出力と5521端子が二つ。シガーソケットはロック位置も記載されています。
電源アダプタは90W出力。
オプションで200Wアダプタ(T200S)も用意されていますが、高速充電はバッテリーセルに負荷がかかるので、あえて低出力にしているのでしょう。
紙類はマニュアルと保証書、検査証明カード。
マニュアルは全編日本語の日本市場向け専用ですが、中華フォントが使われています。
がじぇっとりっぷも最近まではそんなものと流していましたが、「放置すると世界的にこれが”正しい日本語の漢字”と思われるようになる」という意見を見てからは、指摘することにしました。
使ってみた
「EB55」のバッテリー容量は537WHr。前述のように計算上の実効容量は435WHr程度です。
さすがにスマホのみでのんびり試すわけにはいかないので、他の使い方を考えます。
一つ目はノマドワーカー的使用法。
世の中には電気・ガスの通っていない別荘にポータブル電源を持ち込んで、自然の中で仕事をこなすという働き方をする人がいるそうで。
それをイメージして、ノートパソコンとテザリング用のスマホの2デバイスをつないでみます。
満充電のノートパソコン(負荷としてPCMark実行)と、満充電のスマホをつないだ状態で、消費電力は10~30W程度。
平均20Wとすれば、夜間の照明もこれで賄ったとしてもぎりぎり二泊三日くらいは持ちそうです。
次はモバイルディスプレイと「Fire TV Stick」の組み合わせを試してみます。
ネットワークはスマホのテザリングを使用するので、Wi-fiのない環境でも使うことができます。
このセットで消費電力は12~15Wだったので、30時間くらいは動作します。
最後に、今度は大画面もできるプロジェクター(+「Fire TV Stick」)を動かしてみます。
使用するのは一時期8,000円くらいで購入できた、ネイティブ1080p対応のbomaker「PARROT I」。OEM品で、名前を変えた同型品がいくつも販売されています。
消費電力は115W。
見込みで3時間弱の稼働なので、アウトドアでの上映会も映画一本ならいけますね。
大電力を試してみる
「EB55」の定格出力は700W。
お手軽に限界近くを試せないかと目を付けたのが、ドライヤーです。
我が家のドライヤーはSHARP「IB-GP9」
消費電力は最大1200Wですが、風速は3段階あるので、弱を試します。
700W弱と実験にぴったりな消費電力。
計算上では435WHr÷700W=0.73Hr≒37.3分の稼働となるはずです。
…ドライヤーって40分近くも稼働させていいんだろうか…?
ワットチェッカー表示だと699W。
実出力は予想以上にギリギリです。
ドライヤーの電源を入れて30秒後には、「EB55」内部のファンが回り始めました。
音量的にはドライヤーの3分の1くらい。低音寄りのファン音ですが、そこそこにうるさいです。
稼働中の内部温度は50度前後。
ファンの排気は生暖かい程度だったので、43~45度くらいだと思われます。
残量 | 経過時間 |
---|---|
80% | 6分 |
60% | 12分30秒 |
40% | 20分30秒 |
20% | 29分 |
停止 | 35分 |
ファン停止 | 36分 |
計算上の時間までは届きませんでしたが、約35分動作。完全に空になる前に電源供給が止まり、1分ほど排熱してからの動作停止となりました。
もっと短くなるかと予想していただけに、思った以上に使えました。
予想外だったのが、出力の低下。
経過時間 | 出力 |
---|---|
25分 | 680W |
28分30秒 | 670W |
30分 | 660W |
31分30秒 | 650W |
33分 | 640W |
34分 | 630W |
34分30秒 | 620W |
だいたい25分、残容量が30%くらいから出力が徐々に低下。ドライヤーが停止する直前は610W程度まで落ち込みました。
ドライヤーはただ発熱するだけなのでこの程度の消費電力変化はものともしませんが、使用する製品によっては動作に支障をきたす恐れもあるので、大電力を必要とする電化製品は残量30%程度までで使用を中止したほうが良さそうです。
充電について
充電は、電源アダプタこそ9W出力となっていますが、なぜか75Wくらいまでしか上がらず。
とはいっても最初から最後まで70W超えで充電でき、満充電まで約6時間でした。
この充電にもちょっとした罠がありまして。
前述の大電力検証のあとに充電しようとしたら、バッテリーが熱を持ちすぎていて、充電が始まらず(底面のラベルにも、充電範囲は0~40度って書いてますしね)。
急ぎの場合は底面(バッテリーに一番近い面)を冷やすと良さそうです。
ちなみに電源挿しっぱなしで冷えたら自動的に充電開始、とはならず、一度抜き差しする必要があります。
なお、充電できていない状況でもパススルー機能は使えるので、充電はできないけど給電はできます。
まとめ
今回レビューした「EB55」は、500WHrクラスにもかかわらず700W出力まで対応していて、他メーカーの同クラス製品よりも使える幅が広いのがうれしいポイントでした。
記事執筆時点での「EB55」は10,000円オフキャンペーン中で、価格が49,800円です。
高いなぁと思う場合は267WHrの「EB3A」が29,800円(キャンペーン適用価格)です。
「EB3A」は容量が半分ながら定格600Wの高出力ができ、最大430Wでの高速充電にも対応、LCDの残量表示は%単位となり、残り時間も表示されるようになりました。
簡易UPS機能を内蔵していて日常でも使えるうえ、スマホアプリから管理できるようにもなっています。
まぁ逆に、「EB55」は各ブロックごとのオンオフだけのシンプル操作とも言えるので、そこは人によりけりと言えるでしょう。
関連リンク
EB55:BLUETTI
EB3A:BLUETTI
200Wアダプタ(T200S):BLUETTI
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