2021年4月23日、QNAPはRyzen Embedded V1500B(以下V1500B)を搭載した4ベイNAS「TS-473A」、6ベイNAS「TS-673A」、8ベイNAS「TS-873A」(以下まとめて「TS-x73A」)のリリースを発表いたしました。
「TS-x73A」は2月22日のQNAP Live Webinarで先行発表されており、2か月たっての公式アナウンスとなります。
スペック

■QNAP TS-x73A | |
CPU | Ryzen Embedded V1500B |
---|---|
メモリ | 8GB DDR4 |
ストレージ | 4/6/8ベイ M.2 NVMe×2 |
インターフェース | USB Type-C(Gen1)×1 USB 3.2Gen2×3 PCIe Gen3 x4×2 |
ネットワーク | 2.5GbE×2 |
サイズ | 188.2×199.3~329.3×280.8mm |
重さ | 5.03~6.76kg |
特徴
QNAPは製品を企業向け、SMB(中小企業)向け、Home向けにカテゴライズしており、さらにそれぞれでエントリー、ミドル、ハイエンドに分類しています。
おおよその分類イメージは下記のような感じです(すべてのモデルに当てはまるわけではありません)。
企業向け:ほぼラック型、Intel Xeonなどサーバー向けCPU
SMB上位:Intel Core系、PCIe×2など、ラック型が中心
SMB中位:Intel系CPU、2.5GbE、PCIeスロットなど
SMB下位:ARM系SoC、10GbE
Home上位:Intel系CPU、LANは2ポート
Home中位:ARM系SoC、LANは2ポート
Home下位:ARM系低性能SoC、メモリ固定、LANは1ポート
その分類において、「TS-x73A」はSMB向けミドルレンジに位置づけられています。
分類的には「TS-x53D」と同じですが、「TS-x73A」はミドル上位、「TS-x53D」はミドル下位くらいの差があります。


前世代との比較
「TS-x73A」は、先代に2018年発売の「TS-x73」があります。
筐体サイズはほぼ変わりませんが、中身はごっそり入れ替わっています。
TS-x73A | TS-x73 | |
---|---|---|
リリース | 2021年4月 | 2018年4月 |
CPU | Ryzen Embedded V1500B 4コア 2.2GHz | AMD RX-421ND 4コア 2.1GHz/3.4GHz |
メモリ | 2 × DDR4 SO-DIMM 標準:8GB×1 最大:64GB(32GB×2) | 2 × DDR4 SO-DIMM 標準:2/4GB×2 最大:64GB(16GB×4) |
ECC対応 | ○ | × |
OS | QTSまたはQuTS hero | QTS |
ドライブ | 4/6/8 × 3.5/2.5インチ SATA | |
M.2 SSD | M.2 2280 ×2 (PCIe Gen3 x1接続) | M.2 2280 ×2 (SATA接続) |
フラッシュメモリ | 5GB デュアルブートOS | 512MB |
有線LAN | 2.5GbE ×2 | 1GbE ×4 |
USB | USB 3.2 Gen2 ×3 USB 3.2 Gen1 ×1 | USB 3.2 Gen1 ×4 |
拡張スロット | PCIe Gen3 x4 ×2 | |
オーディオ | – | ○(2020年製造分まで) |
消費電力(HDDスリープ) | 19.576W | 33.24W |
消費電力(動作時) | 29.792W | 56.23W |
音量 | 21.4dB | 21.7dB |
サイズ | 188.2×199.3×280.8 mm | 188.2×199.3×279.6 mm |
重量 | 5.03kg | 4.9kg |
CPUはZenアーキテクチャに
「TS-x73A」のCPUはRyzen Embedded V1000シリーズに属する、V1500Bです。
「TS-x73」に搭載されているRX-421NDとの違いは以下のようになります。
V1500B | RX-421ND | |
---|---|---|
リリース | 2018年2月 | 2015年10月 |
アーキテクチャ | Zen | Excavetor |
コア/スレッド数 | 4コア8スレッド | 4コア4スレッド |
グラフィック | なし | |
動作周波数 | 2.2GHz | 2.1GHz |
最大動作周波数 | – | 3.4GHz |
L2キャッシュ | 2048KB | |
L3キャッシュ | 4096KB | なし |
製造プロセス | 14nm | 28nm |
TDP | 16W | 35W |
対応メモリ | DDR4-2400 | DDR3-2133 DDR4-2400 |
GeekBench4 | シングル:2860 マルチ:9646 | シングル:2139 マルチ:5431 |
製造プロセスが微細化し、TDPは半分以下になって、それでいて性能は約1.8倍になっています。TDPの変化は結構大きくて、前世代との比較でも消費電力が大きく下がっています。
残念ながらRX-421NDに引き続き、V1500Bもグラフィック能力を持たないCPUなので、グラフィックを持つV1605Bにして、HDMIの一つも追加されていたら嬉しかったですね。
…いや、NASにグラフィックが必要なのかは別として、ね?QNAP製品は割とHDMIが付いていたりしますし。

メモリは標準8GB
メモリは2スロットに減っていますが、標準で8GBとなりました。
記載はありませんが、仕様的にDDR4-2400と思われます。
最大64GB(32GB×2)まで対応しています。
32GBモジュールって高いと思っていたけど、いつの間にかGB単価は16GBモジュールと変わらないくらいになっているんですね。
M.2スロットはPCIe対応
「TS-x73A」は「TS-x73」と同様、ストレージベイの他にM.2 SSDスロットを2つ持っています。
このM.2 SSDはSSDキャッシュやQTier(アクセス頻度の高いファイルをあらかじめSSDに移しておく)に使われます。
「TS-x73」ではSATA接続でしたが「TS-x73A」はPCIe接続となりました。
ただし、PCIe Gen3 x1接続(片方向0.98GB/s)なのでそこまで強烈に高速化したわけではなく、安価な低速モデルで十分です。
ネットワークは2.5GbEに
QNAPは2020年よりLANの2.5GbE化を勧めており、「TS-x73A」もデュアル2.5GbEを備えています。
前世代の「TS-x73」は1GbE×4と数で攻めていたのが、だいぶすっきりした形になります。
2.5GbEで通信するには間の経路をすべて2.5GbE以上にそろえる必要がありますが、QNAPでは2.5GbE対応ハブ「QSW-1105-5T」など周辺機器もラインナップにそろえています。
2.5GbEで通信すれば、転送速度はだいたい270MB/sくらい出ます。ボンディング/リンクアグリケーションでポートを束ねて5GbE相当にすれば軽く500MB/sを超えます。
10GbEの1000MB/s超えには及びませんが、SATA SSD並みの速度が出るわけで、よほど多人数で同時にやり取りしない限り、HDD並みの転送速度は得られるでしょう。
転送速度が足りない場合はPCIeスロットを使って10GbE化することもできます。
PCIeは2スロット
「TS-x73A」はミドル上位モデルっぽくPCIeスロットを持っています。それも2スロット。
10GbEカードやWi-fi 6カード、SAS/SATA拡張カードなど使い道は様々で、GeForce GTX 1650を挿すということもできます。なお、グラフィックカードは補助電源不要モデルに限定されます。「TS-473A」だとロープロファイル限定も追加ですね。
なお、グラフィックボードの動作にも耐えられるよう、電源は250W出力のものが付属します。
デュアルOS
QNAPのOSといえばQTSですが、2020年5月にQuTS heroというエンタープライズNAS向けの新OSを発表しています。数十TBとか数百TB以上を管理する企業向けで、上位モデルを中心に対応製品が増えています。
「TS-x73A」もQTSに加えQuTS heroにも対応したデュアルブートOS製品となっています。
まぁ、例えば「TS-873A」だと市販で購入できる18TBを8本使えば物理144TBに達するわけで、QuTS heroの対象となってもおかしくはないわけですが(なお、記事執筆時点ではHDDマイニングブームが勃発して大容量HDD争奪戦が発生しており、入手困難となっています)。
QTSとQuTS heroはどう違うのかというと、一番大きな違いはファイルシステムがZFSとなったことです。Linuxベースであることは変わらないため、ほとんどのQTSアプリはどちらでも使えます。一部アプリについてはZFSに対応したQuTS hero専用アプリが用意されます。
ZFSはデータベース大手のオラクルが開発した次世代ファイルシステムで、データの自動修復が可能な「RAID-Z/Z2」、容量の節約になる「インライン圧縮」、「インラインデータ重複排除」、「インラインコンパクション」、監視データの上書き対策などに有用な「WORM(Write Once, Read Many times)」など、ファイルシステムレベルで有用な機能を多数備えています。

「TS-x73A」はこのQuTS heroと従来のQTSのどちらでも動かすことができます。
内容を見た限りでは新規でやるならQuTS hero、旧機種からHDDを移植するならQTSといったところでしょうか。
※ファイルシステムが違うため、ブートOSを変更する場合は初期化が必要です。
筐体
「TS-473A」「TS-673A」、および「TS-873A」は基本的にベイ数が違う以外の差はありません。
前世代の「TS-x73」とはほぼ変わらず、ストレージベイが鍵付きになったくらいの差です。
背面も、マザーボードが共通なのでインターフェースは変わらず、本体ファンのサイズや数が異なるだけです。
「TS-473A」と「TS-473」の比較。
「TS-473A」は60mmのCPUファンがヒートシンク直付けから本体背面(左上、PCIeスロットの下)に移動しています。
考えてみれば熱のこもった内部でファンを回すより、ヒートパイプを引き回して外に排気した方が冷却効率は高いですよね。
まぁこれもインターフェースを整理したことで背面スペースに余裕ができたからと考えることもできますが。
あと地味にType-A端子がUSB 3.2 Gen2(最大10Gbps)にグレードアップしています。Type-C端子も追加されていますが、なぜかUSB 3.2 Gen1なんですよね。
まとめ
「TS-x73A」の価格は税込みで以下のようになっています。サイトによってはもっと安くなっています。記事執筆時点で最安値を付けているのはひかりTVショッピングです。
TS-473A:143,750円
TS-673A:154,850円
TS-873A:177,050円
前世代の「TS-x73」のAmazonでの価格推移を見ると、「TS-473」は108,000円スタートですが、1か月後には早速セールで10万円を切っています。「TS-673」「TS-873」も同様、すぐにセールで1万円以上安くなっていますね。
1年半もするとタイムセールにも登場し、「TS-673」が10万円を切る価格になったりしています。
「TS-x73A」も同じようになるとは限りませんが、急いで買わずとも数か月程度価格を眺めてから買うのが良さそうです。
関連リンク
ニュースリリース:QNAP
TS-x73A Series ライブ発表:QNAP Live
TS-x73A Series 発表スライド:QNAP Live ※PDF
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